湖畔の家

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次が最後のページか… このページを最後に、手記は終わっていた 《ーーー恐ろしい ここは歪み過ぎた… 私が夢見た世界はどこにもない そして私にも…時間は残されていない 全ては戸賀に任せることにした。 水泡と化した夢の残骸も、彼ならばうまく掻き集めてくれるだろう… 地下に棲まうあの怪物達をどうにか出来れば…の話だが…》 ーーー身体中に電撃が迸るような衝撃が駆け巡る まさか…まだ…いるのか…? この家の更に下に… その【怪物】とやらが… ーーー葛藤が胸中で入り乱れる …どうする?行くのか… 私には家庭があり、仕事がある 愛する妻と子が居る。それらを守る責務もある… ここから先は、それを放棄することと同義かも知れない だがそれでも…進むべき理由もある… 誰かがその尻拭いをしなければいけないというならば それは、私なのかもしれない…… ポケットから携帯を取り出し、私は待ち受け画面を見た 笑顔の家族を見て、目を伏せ考え込む ダメだな私は…どこまでいっても… この性から抜けられない… 傍目では歯を食いしばり、苦悶の表情を浮かべていながらも もう脳内では答えは決まっている この身体を蝕む好奇心から抜け出せないのだ 手記に書かれていた戸賀という男…そいつが電話の主だとするなら その男にすら見抜かれているのだ。私のこの悪癖を 恐らくは…このカーペットの下にそれはあるのだろう 「考えてみれば、この感情から引き返したことなど無かったな」 私は急いでベッドの周りのものをどかし、ベッドを立てた そして少しズレたカーペットを捲ると 「…やはり」 取手のついた、外開きの扉 地獄の釜の蓋が、そこにはあった 携帯を見返し、実咲に連絡をとりたいがアンテナが立っていない 一度山を降りて街まで戻って連絡することも考えたが… 連絡をとったら…まず間違いなく…実咲は止めるだろう 当たり前の話なのだが 「…許してくれ。こんな真似は、人生で最後にする」 誰にも届かない、懺悔にも似た口だけの謝罪を口にし 私はその蓋を開いたーーー
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