持たざる者

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「…ぐっ…くぅ」 赤みがかった視界は、額から流れる血のせいだと後になって気がつく 「絶大な勘違いしてるバカなてめえに教えといてやる。 俺らは別にこっから出たいなんて思ってねえ。前提から話がまとまらねえんだよ」 「それは俺も言ったけどね」 「ああ…結から、聞いている…」 クソっ、頭がクラクラする… だが幸いにも繋は本気で蹴っていない つまり彼の中に、僅かながら私への期待めいた何かが潜んでいるのかもしれない 「なら無駄って事はわかんだろ。マジアホなのか」 「……突然だが、君達の父親には夢があった… その夢が何か知っているか…」 「…夢?」 「そんな話したこともないし」 「私だけが知っている……ここから出られたら、その夢が何かを教えてやる…と言ったら?」 あまりにも馬鹿らしい、何の価値もない情報 ーーー常人ならば 「……なんでてめえが?」 「この屋敷にある手記に書いてあったんだ…」 やはり、かなり心が揺れているようだ この兄弟達にとっては、恐らく父親は絶対の存在なのだろう。 そう教えられてきたはずだからだ… だから、その父の面影を僅かでも知る事が出来るのなら彼等は私の話に乗るだろうと思った 「だがそれが本当だとしても、てめえに協力する義理はねえ。ここで拷問して聞き出せばいいだけだ。なあ結」 「なんで俺に振るんだよバカ。やらないしやらせないってば」 「もう一つ」 「あ?」 カラカラと鉄下駄を鳴らしながらこちらに近寄る繋を制止するように私は言葉を発した 「私が読んだ手記には君達のことも全て書いてあった。君達の父親が、どう思って君達と接していたのかも」 「!?」 「へーえ」 「ここから出なければ永遠にその想いの程を知る事は出来ない」 こちらの方はかなりの効果があったのか、繋は完全に黙りこくって考え始めた 「…俺が協力してやっても、ほかの奴らが協力しなかったらどうすんだ」 「あまり考えたくはないが、その時は失敗に終わる」 「…チッ」 「オイ、結」 「協力する気になったのかな」 「どうせ【ワタリ】の野郎がこいつを殺すかもしれねえ。なら今だけ夢見させてやってもいいだろ」 ワタリ…?他の兄弟か… 先程、結が言っていた北にいるという人物のことか 「わかってんだろうが…さっきの話が嘘だったら殺すからな」 「ああ…」 もちろん手記には何も書かれていない… 急場凌ぎのハッタリなわけだが 手記の存在は思った以上に彼等との取引材料になりそうだ 私がここに入れたことから、その存在を疑う事はない筈だ。 事実、実際に手記は存在するのだから その内容を知らない彼等にとってそれはいわばブラックボックス 私の想像で如何様にも脚色出来るわけだ 少しでも矛盾が生まれればアウトだろうが…… そしてーーー ここから無事に出られたとして 生き延びる為に 殺されない為に やはり私は知る必要がある 楠木誠吾の思い描いた【夢】とやらを…
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