持たざる者

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そう言うと、繋はダラダラと歩を進めながら先導してくれた 足元を見ると、確かに言った通り円模様がない部分だけを踏んでいる やはり嘘はついていないということか… 道筋からして、区画全体の間取りは結の部屋と同じようだな 平等を声高々に謳っている人間としてそれは当たり前と言えるか そして…この異様な匂いと床のシミ 「繋、君は一体何人の人間を殺したんだ」 思わず私はそう尋ねてしまった 「あー?覚えてるわけねえだろ」 そうだろうな…日常に殺人が入り込みすぎているんだろう。それはごく自然なことだ 「殺しが愉しいのか」 私がそう問うと、繋は振り返り一瞬悲しい表情を浮かべた気がした 「てめえに関係あるか?」 少しだけ笑みを浮かべ、彼はまた前を向く 「あもーさんは俺らとはちょっと違うんだね。というより、外の人間が違うのかな」 「あもーさんの普通は通用しないよ。上にある【法律】っていうものも、ここには存在しない」 「…それは分かっている。だがなぜ君達の親も、育ててくれた者もそこを疎かにしていたのか…」 「分かってんでしょそんなの。頭いいんだから」 …考えたくはない だが恐らくはそうなんだろう 彼等の親は、彼等を外に出すつもりが無い 必要がないのだ。ここ以外で暮らす事を考える必要がーー 元々、未来を生きる事を度外視しているとしたら合点がいく だがそれならば一つ不可解な点もある 私の推測が正しければ、ここから一人だけ出られるというその条件は嘘ではない きっとそれが楠木誠吾の【夢】に関連する筈だから ならばどうしてそんな矛盾が生じるのか もし… その矛盾を彼の思惑として、もう一つ仮説を立てるなら… …悍ましすぎて考えたくもないな 「おい、ここだ」 繋がそう言うと、目の前には結の住まいと同様の建物があった 「中見んだろ」 「ああ、ありがとう」 ぶっきらぼうにドアを開き、中に入る繋に私も続いた 同じく中も白を基調としている。ただ結の部屋より乱雑な配置だが… 見たところ片付けもあまりしていなさそうだ…結はかなりしっかりしている方なのかもしれない 「なんか言いたげだなてめえ」 「いや…すまない」 あからさまに顔に出てしまっていたのだろうか… 「きったねえ部屋。マジダサい」 「ああ!?」 結が私の代わりに核心を突いてくれ、少しだけ嬉しくなった
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