穏やかな朝 天羽家

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ーーーー 「あんまり危ないことに首を突っ込まないようにね」 子供達が二階に上がり、居間で実咲と二人きりになったときにそう言われた 私の眼はそんなに危うそうな輝きを放っていたのだろうか 「…敵わんな」 「当たり前よ。何年付き合ってきたと思ってんの」 こうと決めたら私が突っ走ることも彼女は知っている だからこそ、先に釘を刺しておいたのだろう 彼女からすれば私も授と変わらないなーー 「……楠木誠吾って知ってるか」 「楠木グループの社長でしょ。知らない人の方が少ない気がするけど」 「明後日見に行く物件の持ち主が、その楠木誠吾なんだ」 「…それはあなたが気になっても仕方ないわね」 「だろう。どんな家なのか見てみたいじゃないか」 「家の中にバーとかジムとかあるんじゃない」 「はは、ありそうだな」 「まあ、少し見て帰ってくるだけだし、そんなに危ない場所でもないから大丈夫だ」 「ならいいけど…昔から没頭したら周りが見えなくなることがあるからね」 「それはお互い様だろ」 「一緒にしないでよ」 互いに互いの欠点を認めないあたりも、私達は似ているのだろう だから彼女も私と同様に、あの非常識な電話の主には怒りを露わにするに違いない。 ゴミ箱の中に権利書が捨てられていたなんて話 きっと更に声量のボリュームが上がってしまうだろうからな… 「明日も早いからもう寝るよ」 「おやすみなさい」 ーーーだが、一つ気がかりなのは 電話の主は、もしかすると私を深く知る人物なのではないかということだ。 まともな不動産屋なら、ゴミ箱に権利書が入ってた時点で処分の手続きを考える だが、だからこそ電話の主は私を、私の店を選んだのだ 私なら、公の場に出す前に、自らそこに足を運ぶと知っていたから そして私はその思惑に乗るしかないのだ。 全てを知るために、物件を見ないことには何も知り得ないからだーーー 様々な思案を捏ね、微睡ながら 私は眠りに落ちていたーー
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