湖畔の家

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湖畔の家

ーーー昼過ぎ、運転にも疲れてきた私はパーキングエリアで休憩がてら昼食を摂り、更に車を走らせた 辺りはすっかり山道となり、見える家と人の数も減ってきている 住所の場所は随分と山奥で、車のナビも正確には把握できていないようだった 「この辺りか…」 近くに駐車場らしき場所はなく、鬱蒼と生い茂る樹々の中、なるべく平坦な道に私は車を停めた そこから徒歩で書類に記された住所まで向かうと 一箇所だけ木々がなく、開けた場所があり その真ん中には小さな湖畔が存在していた 「こんな所に…随分神秘的だ」 エメラルドの湖面に、僅かに桟橋がかかっている しかし舟らしきものはなく、当たり前だが、家らしきものも見えない 「オイオイ…ここまで来たっていうのに」 若干の疑いはあったが…まさか本当に騙されただけか そういう焦りが生まれてくるも、もう一度電話の男が置いていた書類に目を通す 「ーーー『枯れぬ木が枯れる時、涸れた木は涸れる』」 …なんだこれは、暗号か? メモ書きのように、下の方に手書きでそう記してあった ここまで来させておいて更にこんな言葉遊び付き合わせようという魂胆は気に入らないが 私を試しているというなら、少しばかり付き合ってやる 枯れぬ木… 私は湖の周りをグルリと見渡した 辺りの木々を見ると、どれも同じに見えるが… 「…なるほど」 あまり樹木に詳しい方ではないが、これは恐らく欅だろう 一本一本、木を調べていくと 湖面から少し離れた位置に明らかに葉の形が違う木があった 他の木の葉っぱは上向きの鋸歯の形をしているのに その木だけはギザギザが存在せず、丸みを帯びていた 「枯れぬ木とは、人工樹木か」 となるとこれが… 私は今度はその木を隅々まで調べた すると、木の真ん中に腕が一本入るくらいの窪みがあった 「これか…」 窪みの中を持ってきていた懐中電灯で照らすと、中にレバーらしきものがある 随分とまあ…凝った仕組みだ だが金持ちがすることなので、私は然程驚かなかった 腕を伸ばし、レバーに手を掛けゆっくりと下ろす 「…くっ…。めちゃくちゃ重いな」 レバーは少しの力ではびくともせず、本気で力を入れても少し下に動く程度だった 「私が非力なのか…」 いや、それにしても変だ。これを操作する人物が女性や子供である可能性を考慮するなら、ここまで固くしていては不便すぎる もう一度文を整理して私は考えてみた 「…そうか」 この枯れぬ木を、枯らさなければならないのだ 枯れない木をどうやって枯らすのか、なんとも落語のような話だ だが考えた結果、私はそれしかないと思った この木の根元には、根が八本張っている 私はダメ元でその根の一本を地面から引っこ抜いた 「なっ!!」 思いっきり力を入れて抜こうとした私は その根があまりに軽く抜けるものだから尻餅をついてしまった 「そういう仕組みか…怪我する所だった」 腰をさすりながら、私は残る七本の根も地面から引っこ抜いた 八本目を抜き終えた時、木の中から「ガコン」と、凡そ植物からは聞こえる筈のない機械音が響いてきた 木は根がなければ枯れる。だから枯らすために全ての根を抜く必要があるということか 馬鹿らしい話だが…これで 私はもう一度レバーに手を掛け、引き下ろす 今度は嘘のようにレバーをすんなりと下ろすことができた 「根が安全装置みたいなものだったわけだ」 すると なにやら近くで地鳴りのような音が響いてきた
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