湖畔の家

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何の音か耳を澄ますと、どうやらそれは湖面から聞こえているようだった 「なるほど…これは」 明らかに、湖面の水位が下がっている… どうやらあの枯れた木は取水塔の役割を担っていたようだ そしてーー 水位が下がったことにより、ある一本の大木の根が剥き出しになった その木は湖面の中まで根があったようで、それがもう一つのヒントだと私は気が付いた 「涸れた木。か」 その大木の方まで歩いて行き、私は木に空いてある穴から中を覗き込んだ。 やはり… 木の中に何か取っ手のようなものが見えた 私は隣にある木に登り、そこから大木の上部に渡った 下を見ると、大木の中には空洞があり、梯子がかかっていた 「ここが入り口か。水位が高い時は入れないようになっていたというわけだ」 凝りすぎているな。こんな大掛かりなものが今まで誰にも見つからなかったのか? 恐らくここら一帯全てが、楠木誠吾の所有する土地なのだろう。 今でこそ誰もいないが、当時ならばここを見張る守衛などもいたかもしれない 木の中を降りて行き、一番下に辿り着くと 先程見えた取っ手が木に斜めに取り付けられていた 私はその取っ手を、ゆっくりと引っ張り上げる 鉄が軋む音と共に、扉が開き、土埃に塗れた階段が見えた 躊躇いなくその階段を降りると、数メートル程の回廊があった 「らしくなってきたな…」 回廊の壁は煉瓦にも見えたが、湖の中だ。水圧に耐えられるような材質なのだろう その先に見えたのは、何の変哲もない普通の どこにでもあるような民家のドアだった 果たして鍵は開いてるのか… ドアノブを下ろし、ドアを押すと ガチャリ。とドアはあっさり開いた 「は、はは…面白い」 まさか本当に、湖の真下に こんな普通の家が存在するなんて… 玄関があり、廊下があり、そこから分岐したいくつかの部屋 奥へ進めば二十畳ほどのリビング。リビングにはテーブル、テレビ、ソファが並び、ダイニングキッチンが備えられている。 やはりここで誰かが生活していたのか… 楠木誠吾と愛人か? もしくは隠し子…あり得ない話ではない その存在を明るみにできない人物が確かに居て、その者の為にこの家を建てた その人物は生涯をほとんど…或いは一生涯この家の中で過ごしていたのかもしれない 考えると恐ろしい話だが、正直ここは衣食住には困らない。 他の部屋も見て回ってみると、運動が出来るようにトレーニングの器具や、書斎などもきちんと併設されている。 環境としてはこの上なく整っている。普通の人間ならここで働かずに一生美味い物を食べて暮らせるなら幸せを感じるかもしれない… ただ、一点…孤独という点を除いては……ーー
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