アシッド・レイン

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 宮下が警視庁本庁に戻り、後輩の丹波にあの夏野原エリカに関するSNSの書き込みを分析するよう頼んだ直後、宮下のスマホが鳴った。  通話を取ると受け付けからだった。 「帝都理科大学の渡教授とおっしゃる方が受け付けにおいでです。宮下警部補にご面会のアポがあると」  宮下は腕時計を見て、アッと声を上げた。 「いけない、忘れてた。今お迎えに行きますと伝えて下さい」  数分後、小会議室の机をはさんで宮下と渡は座っていた。渡が長く伸ばしたあごひげを指でしごきながら言う。 「うちは国立大学だから警察から協力しろと言われたら断れんが、君が持ってくる話は厄介なものばかりだな」 「ご面倒かけてすいません」  宮下は精一杯の作り笑顔で頭を下げた。 「渡先生と遠山先生ぐらいしか、私にはツテがないもので」 「結論から言おう。あり得ん」 「は? 何があり得ないと?」 「現場で採取された酸は、硫酸と判明した。うちの化学の専門家の分析でな。しかも事件当時の濃度を推定した結果、90%以上だ。自然界にそんな高濃度の硫酸が存在する事はあり得ん」 「では自然現象、たとえば局地的な酸性雨という可能性は否定されると?」 「いいか、純粋な硫酸は自然界には存在し得ない。火山の側で硫黄が大量にある場所なら、一時的に生成される可能性はある。だが、硫酸は水との反応性が極めて高いから、あっという間に薄まってしまう。濃度90%と言ったら、いわゆる濃硫酸だ。人工的な物としか考えられん」  部屋のドアがノックされ、丹波が顔をのぞかせた。 「先輩、例の動画の視聴用意が出来ました」  宮下は渡に言った。 「そうだ、渡先生も一緒に見ていただけませんか?」 「ネットの動画をかね? 私はそんな物に興味はないが」 「できれば違う年代の方の印象もお聞きしたくて」 「ほう、私は老人代表というわけか?」 「あ、いえ、そんな意味ではないんですが、あのう、何というか……」 「ははは、冗談だよ。ま、確かに君たちから見たら十分年寄りだろうな。いいだろう、付き合おう」
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