出会い

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「今日はどんな人が来るかな」 平日の肌寒い夜。私は新宿の安居酒屋にいた。 29歳。三十路手前。まだ現実と希望の狭間にいる。 今時のマッチングアプリは便利だ。まともなやりとりもしない内に食事に行ける。 私は教員だ。平均年収より少し高いくらいの稼ぎである。その割に都内で一等地のマンションに高い家賃を払って暮らしている。 私は成人してからADHDの診断を受けている。きっかけは仕事でそれらの子供と関わったこと。 指導しつつも、とても他人ごととは思えなかった。それで密かに診断を受けに行ったのだ。 昔から集中力がなく、すぐ物をなくす。基本的に雑。机に座って勉強することが出来ない。 叱ってくる親に認めてもらいたくて、本来不向きなことを全力で頑張った結果、国立大に受かり、卒業することができた。 昔から空気が読めず、ピエロであった私にとっては平均、普通であることが羨ましかった。 しかし自分の努力も認めてほしい。人より秀でた能力がないことは自分が一番よく分かっている。 「中の上の生活」 私の目標はここだ。 人より少し良いマンション。少し良い仕事。少し良い大学。少し良い結婚相手を作って一番認めてほしい親を安心させたい。頑張ったねって言ってほしい。 今は人生の岐路にある。 前の彼氏とは2年前に別れている。 次付き合う人とは結婚する ありきたりの言葉だが私もそう思う。 「早く落ち着きたい。」 将来のことを考えなきゃ。まずは貯金。副業は禁止されてるし、、、。 そこで節約のためにやり始めたのが覆面調査員のバイト。まともな稼ぎにはならないけど、商品や食事をタダ同然で獲得できる。 大事な友達を自分の節約のために振り回すわけにいかない。 そこでマッチングアプリを利用する。 お店をこちらで指定し、少しはお金を出しつつレシートを得られれば、上手くいけば2人分の飲食代を獲得できるので、仕事終わりの小遣い稼ぎにはなる。 男側としても、手っ取り早く会えるし、店を決めてもらえるし、高くない店だし、悪いことないでしょ? 1日1日を無駄にしない。今日もきっと良い日。 ただ、私は今日風邪をひいていて、声がかなり掠れている。 「絶対変な風に思われる。」 まあいいか。もうこの後会うこともない人だし。 嫌な奴がきたとしても、黒字だから私に損はないのだ。 待ち合わせ時間5分前。私はお店に到着した。 アプリを確認すると、「少し遅れます」と連絡がきていた。 てか今日くる人ってどんな人だっけ。 毎度のことだが、私は相手の情報をまともに見ないで会う約束を取り付けている。 一応会う直前に軽くプロフィールを確認する。 職業や居住地、趣味、、、特徴になりそうなことを待っている間にピックアップする。 全く確認していないのも失礼だと思われるから。 熟読しているのが伝わったらそれもがっついているとおもわれるのも嫌だし。
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