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再会
翔と会ってから1週間後、翔からアプリづたいに連絡がきた。
「お久しぶりです。前回はありがとうございます。もしよければまた飲みに行きませんか?」
嬉しかった。またできれば会いたいと思っていたから。
「はい、ぜひ。お店私探しますよ!」
すぐに返信を送った。
「ありがとうございます、助かります。」
「代々木にお住まいということは、新宿御苑駅とかで駅近の店探しますね。」
そして私は覆面調査の募集を確認し、新宿御苑駅近の条件に合いそうな都合の良いお店を探した。
あるある。
格安チェ一ン店。
ちょうどいいから付き合ってもらおう。私がお店を探してるから向こうも文句言えないでしょ。
そして当日。
私は思った以上に仕事がおして15分ほど遅刻してしまった。
慌てて行くと、翔がニコニコしてスタバの前で待っていてくれた。
「遅れてすみません!」
「いえいえ、全然待ってないですよ。むしろお店探してくれてありがとうございます。」
きちんとした声で答えてくださる。
一緒に駅から1分の距離の居酒屋に向かう。
中は簡素で、私たちは狭い厨房に近くて落ち着かない席に案内された。
翔は、「ああ」と何か思ってそうな反応をしていたが、特に不満は話してなかった。
お医者さんをこんなお店に連れて行くなんて申し訳ない。
この瞬間そう思った。
座って生ビールで乾杯した。
「ほら、こないだなんで家着いて連絡くれなかったの!」
翔が笑いながら注意してくる。
「すみません、でもご挨拶で本気じゃないと思ったから」
と困りつつ私は答える。
「夜何かあったら危ないでしょ。」
「でもさ、この治安の良い区で何かあると思う?」
すると、暗く真剣な表情に翔がなる。
「表向きニュ一スになってないかもしれないけど、こないだもあの近くで女子校生が夜レイプされたんだよ。
すごく傷だらけになってうちの病院に運ばれてきた。妊娠しちゃってさ。中絶することになったんだ。
すごく悔しかった。」
私は黙ってしまった。
「そんなことあるんだね。私何かあっても力強いから振り解いて逃げれると思ってました。」
「本当?男の力って思った以上に強いよ。僕がアスカちゃん襲ったら振り解けないと思うよ?」
「えっ、そうか。」と呟く。いい歳をして甘い自分に嫌気がさす。
「それより、声治ってよかった。少し低くて元は良い声してるんだね。」
優しく翔がいう。
「やめてください。私このハスキ一ボイスずっとコンプレックスなんだから。」
本当に昔から水川あさみみたいだと言われてきて本当に嫌だった。音痴でもある。
「僕は好きだけどな。」
欲しい言葉を言ってくれる独特の感性を持った人だなと思った。
今まで多くの人が私のことを否定してきたような部分を評価してくれる。
この人他の多くの人とは違うのかも。
そんなことを思い始めていた。
「それより体調大丈夫?ちょっと触診していい?」
そういって私の目を見たり、頸動脈を触ったり首筋に手を当てて皮膚温度を見てくれたりした。
恥ずかしくて目線を斜め上に私は外していた。
「、、、大丈夫そうだね。」
翔がそう呟く。
お酒がすすみ、ハイボ一ルを立て続けに翔は頼んでいる。
少し酔ってきたのかニコニコしてご機嫌な様子。
店員さんがポンコツで、何回注文しても持ってくるのを忘れていたりしたが、それも怒らず
何回も言い直していた。楽しんでくれてるならよかった。
「そういえばお仕事何してるの?」
翔が唐突に聞いてきた。
私は翔に好意を持っていたから、「保健室の先生です。」
迷わずそう答えた。
「エッロ!」
やらしい目つきで翔はいう。
「だいたい俺こう喋りながらずっと谷間見てるからね。」
と横を向きながら翔はいう。
実は私はFカップ。胸の大きさには自信がある。前回は急遽決めたのもあり、
ほぼすっぴんで地味な仕事着で行ったことを反省し、やや谷間が見える色っぽい服を着てきた。
「俺、彼女にはこういう服着せないな」
そう言っていた。あ、だらしないと思われたかな。まずかったかな。
少し後悔をした。
「医者とかどう?」笑いながら言ってくる。
「あ、やっぱりお医者さんとかって大事に育ててこられてるから、申し訳ないという意味で、、、大丈夫です」
好意を抱いているけどそう言ってしまった。私は不器用で素直でないのだ。
すると翔が珍しくムスッとした。
「ちょっとそれは腹たつな。俺親は一般家庭だしそれで一生懸命勉強して医学部奨学金もらって入ったし。」
「あ、そういうことじゃないし、もちろん努力はされていると思うけど、親もちゃんとした方が多いと思うし、
大切な子供をよくわからない女と結婚すると言ったらやっぱり良い気はしないよ。」
「そうかな?俺のおフクロ何も思わなそうだけど。」
翔はそう答える。
「あんまり優秀じゃない人やだ?夢を追う人とか」
翔が聞いてくる。
「ちゃんと夢があって頑張ってるなら別にいいと思うな」
そう答える。
「え、ずっと収入まともになくて夢を追うような奴でも良いの?」
「う一ん、それは子供生まれたりしたら自分の夢だけ追うわけにもいかないし、
夢を追うっていっても無期限にずっと追うのも違うかもだから、それはその相手の実力とかも
みつつじゃないし、夢を追うならきっちり期限決めてやるのも大事になってくるかもしれないから
その人に応じてかな。」
「へぇ、そうなんだ」
翔が少し驚いている表情だ。
「てかさ、看護師さんって本当にちょっとしたことでも夜電話してくるよね。」
翔の酔いが回ってきたのか愚痴になる。
「でもそれって、その看護師さんも1人で勤務しているわけじゃないんだから、他の看護師さんとも相談して
その上で申し訳ないなって思いながら電話してると思うよ。
誰だってあんな夜に電話して申し訳ないなって思ってるよ。」
私は経験上からもそれをみてきたのでフォロ一した。
「えっ、そんなことしてんの、知らなかった。いや、いいんだよ。大事なこと報告してなくて事故起こすよりは。」
翔はハッとして答える。
それより私、看護師ずっと前に辞めたのに、私のこと看護師扱いしてくるな。
看護師資格よりも養護教諭の資格とるのって難しいし、就職するのも大変なんだけどな。
少し不満が出てきたけど、まだ慣れてないからこのくらいしょうがないか。
「他の人からも誘われてたりするんじゃない?」翔が急に聞いてきた。
ADHDの症状、私の元々の正義感の強い性格もあるが、嘘がつけない。それにモテないとも思われたくない。
「まあ、そうですね。」
できるだけサラッと曖昧に答える。カッコつけてみる。
「良い女だもんな。」
翔が答える。
飲みすぎてお互い頻回にトイレに行った。
安居酒屋だから店内にトイレはなく、ビルのトイレに毎回出るのが大変だった。
「誰か紹介して!てか合コン開こうよ!」
翔は笑って言ってくる。あんまり面白くないな。
反射的に、「いいですよ、私の友達可愛い子多いですよ。」
と強がって言ってしまう。
翔は、「いや、僕はいい。」
なんなんだろう、、、。
「そろそろ行こうか。」
私がいう。調査も終わったし明日仕事だし。
「わかった、今回はお金出さなくていいからね。こんな安居酒屋も払えないと思われたくないですから。」
優しく翔が言ってくれる。
「いえいえ、ちゃんと対等だし彼女でもないんだから」
遠慮もあるが、普通にレシ一トが欲しい。やばいどうしよう。
作戦を立てる間もなく、翔がお会計を済ませてしまう。レシートをテ一ブルの上に置いていた。
ああ、欲しいな。もう諦めるか。
1人でそんなことを思いながら悔しい気持ちで2人で店を出た。
「あ、ごめんトイレ行ってきていい?」
翔がトイレに行った。その隙に店員さんには忘れ物をしたということでテ一ブルに戻り、レシ一トを素早くとった。
やりい。7280円。2時間半でそのくらい。ゲットだぜ。
何事もなかったかのように店外に出て翔と落ち合う。
翔は何も気づいてない様子でとてもご機嫌だ。
2人でまた駅まで歩く。
改札前、翔が「今日もありがとう、楽しかった。」
「私もです、また誘ってください。」
「俺、この後行きつけの店に行って二次会するけどね。」
「、、、」
私も行きたい、、、でも誘ってくれないし。何て反応すれば良いかわからなかった。
「あ、そうだ。前回アプリでしか連絡取ってなかったからさ。ちゃんと帰ったか聞きたいかLINEだったら通知くるだろうから
教えてもらってもいい?」
「え、もちろんです!」
嬉しかった。私のこと嫌いではないってことだよね?
そこで改札で別れた。
今回は帰宅してすぐ家に着いたと連絡した。
「よかったです。実は二件目誘おうかって思ったんだけどね笑」
「えっ、誘ってくれればよかったのに」
そう返した。
少しは近づけたかな。
また会いたい。
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