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生徒会役員はハイクラスに所属するアルファ生徒たちの集まり。他校から来た僕なんかは同じアルファであっても恐縮してしまう周防学園のスーパーアルファの生徒。
その中に、僕のーー。
「危ない!」
群れの中で、ふわりと金色の髪が揺れたと思った。
僕の見えた僅かな隙間から、ある生徒が群れの壁となってるファンの生徒たちに押されて倒れそうになっていたところを、生徒役員の一人が腕を掴んでその生徒を胸に抱え込んだ。周囲はその光景に声を響かせる。
顔なんて見えなくても、金色に近い明るめの茶色い髪と背中越しでもわかる懐かしい人は僕の幼馴染、来栖 蒼……蒼が、めちゃくちゃ至近距離!!
「来栖様!たかが補佐のオメガなんかに抱擁はやめてください!!」
ヤジのような声にハッとして前かがみになる体を硬直させた。
倒れそうになっていた生徒を助けたのは蒼で、抱えてるのはオメガの補佐の生徒だったらしく……なんて色白で華奢で身長も低くてスッポリと頭から蒼の懐に包まれている。
僕は殆どオメガの生徒と交流はないけれど、この学園に来て初めて見る綺麗なオメガの生徒だと思った。
彼はまるでお姫様のように守られるべき存在だって確信するかのように。
「それは違うな、たかがじゃない。補佐であるオメガ生徒の彼も生徒会役員と変わらない同等の生徒だよ」
蒼が発する、低めではあるけど心地よい凛とした声色。
ファンの生徒たちはその場で黙ってしまった。
おむつ姿でハイハイしてた頃から知ってる僕は、蒼のたっぷり甘えたくなるほどの優しさを知ってる。
それにハーフである派手な外見から反して、内心はとっても堅物だって事も。
大和くんの背中にへばりついてシャツを握っていた指の圧力に「痛い痛い」って騒ぎ出したのでパッと手を離すと、もう少しで届く距離にいた蒼は僕の存在なんて知る由も無くて、他の生徒会役員と去って行った。
「天音ちゃん至近距離で見れちゃったわぁ、けどツンデレと見たね」と、耳元で喜んでいた大和くんの声を聞いて、気楽に蒼が僕の幼馴染なんだと大和くんに伝えられたら……。
でも僕は蒼には会えない。
蒼に嘘をついてまで地元の高校に通っていた僕が、偶然だとしても1か月前に蒼のいる学園に来てから一度も蒼に会っていないし僕から会いに行くなんて今更、出来ないよ。
それに蒼からの連絡もある時からピタッと途絶えてーー気が付いたら『現在使われていません』の無機質な音声だけ耳に残った。
あの日から僕は蒼から逃げて、言い訳ばかり言って、困らせた罰なんだ……。
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