<十三> それでも春がくる

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             37 卒業式    卒業式が執り行われたのは、朝から薄曇りの肌寒い日だった。  卒業式までの間に「三月まであっという間だから」と言った、あの人の言葉を瑛斗は何度も何度も思い起こした。  本当だったね、しゅーちゃん。  闇雲に突っ走っているうちに、気がつけばこの日がきていたよ。  卒業するまでは、とふたりで約束したその日が、ようやく訪れたんだよ――。  粛々と進行する式の光景を講堂の椅子に座ってぼんやりと眺めながら、瑛斗は本当であればこの場所の片隅にいたはずの、今はいない人のことを考えていた。  教室に戻り、担任の最後の挨拶を聞きながら、瑛斗はふと窓越しに見える別棟の廊下に目をやっていた。  二学期以降、英語準備室の明かりを確認することはなくなった。朝、教員の駐車場を見に行くのもやめた。  だがどういうわけか、授業中だろうと休憩時間中だろうと、ふと気がつけば窓から見えるあの廊下に視線を向けていた。  あの時初めて見た、幸せそうに輝く最高の笑顔を、瑛斗はいつまでたっても忘れることができなかった。  あの笑顔を自分にも向けてもらえたらいいのに――いつしかそう考えるようになり、気がつけばその願いは叶えられていた。  あの人を幸せにしたいと考えながら、瑛斗自身があの人から何ものにも代えがたい幸せを与えられていた。  この場所を離れる前に、もう一度、あの笑顔を見たいとずっと願い続けてきた。  担任の話が終わっても、瑛斗は頬杖をついたまま窓の向こうを見ていた。  奇跡なんて起こるはずがないとわかっていながら、瑛斗はいつまでもその廊下から視線を逸らさなかった。      
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