ペンペンが語る 慰安婦物語 詩織さん事件

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第一章 詩織さん事件 森友事件についての自分なりの追及が一段落して、僕は自己満足しながらコーヒーを飲んでいた。たまらない幸福感。ウサギ小屋そのもののアパートの一室だし、豪勢な食べ物や気の利いたアルコール類などないけど、自分が落ち着ける空間。そこで、一仕事終えた後の充実感に浸りながらの一服だ。やっぱり、幸福=金ではない。そういう思いはなくなるどころか、日に日に増していくような気もする。たまに友人に会ってその思いを吐露すると、「おまえは坊さんにでもなったらいい」と決まって言われる。そうかもしれないけど、自分なんかじゃろくな坊さんにはなれないだろうなあ。 「そんなことないよ」 と、ペンペンがいきなり現われて変な褒め方をされた。 「ああ、ペンペン。褒められているのかけなされているのかわからないけど、どういうこと?」 「人々の劣化が激しいってことだよ。よくわかっているでしょう」 「なっ、なるほど。僕が優秀なのではなく、周りがおかしくなっているわけだね」 「森友事件で行政とそれにたずさわっている人たちの劣化がよくわかっただろうけど、詩織さん事件は、女性の権利に関することだけではなく、いろいろな意味で森友事件と共通の背景を持っているんだよ」 「共通の背景?」 「主犯者がTBSの波取り記者だったんだよ」 「波取り記者? ああ、思いだした」  そう、忘れもしないこの言葉。森友事件を追及してスクープした当時のNHK記者、相澤冬樹氏の番組を巡る、当時のNHK波取り記者の小池英夫報道局長。 「ペンペンが語る森友物語」より引用 7月26日、NHKがスクープを発表する。 土地の売買を担当する財務省近畿財務局は学園側に、いくらまでなら支払えるのかを聞き、その提示を下回る金額で売却。さらに、国有地取引としては異例の10年分割払いについては、財務局から提案していた 当時NHK記者、後大阪日日新聞論説委員になった相澤冬樹が中心となって実行されたスクープだった。「波取り記者」という政権とのパイプ役を果たす記者がいて、政権にとって都合の悪いジャーナリストやコメンテーターを政権に伝え、彼らの仕事を潰してきた。このときのNHKの波取り記者が小池英夫報道局長だった。小池は頻繁に当時の今井尚哉秘書官と連絡を取り合い、5階にある自室から2階のニュースセンターに電話で指示を出していた。小池が2階に降りてくると“Kアラート”といってさらに警戒されていた。この森友事件の特ダネが報道されると、「私は聞いてない。なぜ出したんだ」と小池が相澤を一喝。翌7月27日朝の「おはよう日本」では、この報道はオーダー(放送順)が後ろに下げられた。 ここまで 「詩織さん事件の主犯者がどんな記事を出していたか知ってる?」 「うーん、そこまでは知らないけど」 「ベトナム戦争のときの韓国軍慰安所の記事」  確かに主犯者の山口敬之は、週刊文春にベトナム戦争のときの韓国軍慰安所の記事を投稿していた。別に裏話なんかではなく、単に僕が知らなかっただけだ。 「詩織さん事件というのは聞いたことがあったけど、森友問題と共通しているとは知らなかったなあ。女性差別問題というくらいの認識しかなかったよ」 「慰安婦問題をきちんと調査・検証している人たちも確かにいるけど、何らかの利権から慰安婦問題を矮小化しようとする人たちも保守派と言われるグループにいるんだよ。はい、勉強」 と、ペンペンは相変わらずかわいらしい右手を振って、変わり映えのしない僕のベッドと冷蔵庫の間の空間にホログラムを出現させ、高画質の映像を映し始めた。一生かかっても自分が満喫することなどなさそうな豪奢な建物が映し出された。 東京・永田町にあるザ・キャピトルホテル東急。庶民が思うようなホテルとは少し違う。賃貸フロアがあるのだ。その名も「ザ・キャピトルレジデンス東急」。ケン・コーポレーション社のホームページに表示される写真画像を見るだけでも、ため息が出てしまう。謳い文句は  高層複合ビル「東急キャピトルタワー」内の16~17階を占め、東に丸の内方面、西に神宮外苑、新宿方面をひろく見渡すことができます。「ザ・キャピトルホテル東急」のホテルサービスを堪能する真のおもてなしを備えた都心型レジデンス。  そのおもてなしとは? 「共用設備」を見てみる。  ■無料サービス  ・コンシェルジュサービス  ・各種取次ぎサービス  ・ハウスキーピング(週2回)  ・メールデリバリー  ・新聞デリバリー  ・ポーターサービス  ・インターネット 共用施設等  ホテル・エントランス 寺院建築によく見られる斗棋(とぎ)と呼ばれる組物で、和のおもてなしを演出。 ラウンジ(3F) 水と緑に囲まれた、寛ぎのスペース。  フィットネスクラブ・プール(14F) 20m・3コースの屋内温水プールや、テレビ付きランニングマシンやエアロバイク、最新のウェイトマシンなどを完備下ジムをご用意。  ジャグジー(14F) 14F二層吹き抜け、壁面上部の窓ガラスを取り払い、自然の風を感じられる空間です。その他、サウナ・トリートメントルームも完備。 貧乏庶民は、「広すぎて使い切れねえ!」ぐらいの捨て台詞しか吐けない。入居者に対する審査も厳しい。その高層ビルにある賃貸ルームでも高額上位に入る月額200万円の部屋を借りている山口敬之は、今日も忙しい。なにしろ売れっ子だ。あっちのテレビ番組でコメンテーターを、こっちの保守系雑誌で対談をこなす。それでもって、本も出すのだから、俺様はなんて優れた文化人なんだろう。知ってるか? 今日は週刊誌のインタビューだぜ。俺様が出す本のための著者インタビューだよ。その本のタイトル? 聞いて驚くなよ。「総理」何? 総理と話したことがあるかって? 当たり前だろ。俺様を誰だと思ってるんだ。携帯で密にやり取りする仲だよ。総理だけじゃないぜ。官房長官だって、どこそこの有名な社長だって、皆俺様からの連絡を喜んでくれているよ。なんせ、慶大卒のTBS報道局カメラマン、ロンドン特派員を務め、つい最近までワシントン支局長を務めていたんだから。えっ? 去年、週刊文春に掲載されたベトナム戦争のときの韓国軍慰安所の記事? ああそうだよ、読んでくれてたかい。すごいだろ。あれは俺様が投稿した記事さ。ったく、慰安婦なんてどこの国でもいるさ。いちいち騒いでいる奴らは売国奴さ。あれじゃ、隣国と仲良くしようと思ってもできなくなるじゃねえか。阿保共め。でもちょっと失敗だったかな。あの記事がきっかけで今年TBSを退社する羽目になったんだからな。まあほんのささいなことさ。俺様のような有能かつ著名な文化人なら、TBSの看板がなくたってどうってことないさ。今回の著作がヒットしたら、そんなことも隅っこに追いやられるだろうさ。 山口のスポンサーは、2010年に半導体開発会社「ペジーコンピューティング」を創業した齊藤元章氏だった。新潟大学医学部、東大大学院医学系研究科出身で、一時、理研と共同開発したスパコン「菖蒲」が世界のスパコン省エネランキングで1位を獲得している。それだけ見ると素晴らしい企業だが、齊藤氏は、助成金詐欺で2017年12月5日に逮捕されている。同氏の企業グループには国から100億円前後の無利子融資金が注ぎ込まれていた。民間からも200億円調達したという。斉藤氏を取材したNHKの番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」も逮捕で放送中止になる。顧問料200万円、家賃として200万円を山口に払っていたという。同社の顧問になり、同社製スパコンの営業も支援していた。無利子融資の口利き料だったと言われている。 山口の資金源は他にもあった。飲食店検索サイトの『ぐるなび』開設者として有名な滝久雄氏の広告代理店NKBだ。滝氏と菅義偉官房長官(当時)が知り合いで、TBS退社後の山口への支援を菅が滝氏に依頼したという。その内容はというと、以下のような顧問契約だった。 ・原則として月1回、意見交換を行なう ・顧問料として月額42万円を振り込む ・必要と認める範囲で交通費その他の経費を支払う   「この支払いは2016年11月に始まったんだけど、2017年5月に新潮の検証・告発記事が出たために、支払いがすぐ停止されたから、山口はあまりもらえなかったみたいだね。クワクワ」 と、ペンペンが笑う。 新潮に、安倍晋三とカルトの慧光塾の関係が暴露されていた。「謎の風水師」と書かれた光永仁義が、慧光塾(えこうじゅく)という新興宗教を設立。光永仁義は安倍晋太郎のパーティー券を1000万円も購入するなど、安倍家との関係が深く、その関係が安倍晋三にも受け継がれた。慧光塾は安倍晋三後援会「安晋会」も兼ねていて、2005年に謎の死を遂げた光永仁義の妻である光永佐代子、本名・長谷川佐代子のお告げに従って、安倍晋三が動いていたという。慧光塾を操っているのがCIAとも言われているが、真偽は定かではない。しかし、安倍第二次政権下でアメリカ戦争屋に利する法案が数多く成立したのだから、真とみなすほかない。 山口敬之も信者で、安倍晋三は山口敬之を同じカルト仲間のよしみで利用し、山口は安倍の御用記者となって、2013年からTBSワシントン支局長に就任し。その一環として、「韓国軍にベトナム人慰安婦がいた」という記事を報道しようとしたが、TBS上層部から却下された。しかし、安倍の御用記者としての使命を果たすべく、これを週刊文春に持ち込み、2015年4月に記事にされた。ところが、その週刊文春の記事を、週刊新潮が後に以下のように検証した。 (1)山口氏は自分で公文書を見つけたと言っているが、違う。 (2)公文書は慰安所の存在を全く断定していない。 (3)証言者の発言を捏造、歪曲、無視している。 (4)そのような虚報を用い、駐米公使と謀って外交に利用しようとし、失敗した。    2015年3月29日付けで、産経新聞が同記事について以下のように報道している。 韓国がベトナム戦争時、サイゴン(現ホーチミン)市内に韓国兵のための「トルコ風呂」(Turkish Bath)という名称の慰安所を設置し、そこでベトナム人女性に売春させていたことが29日、米公文書で明らかになった。韓国軍がベトナムで慰安所経営に関与していたことが、公文書として確認されたのは初めて。 (中略) その中で米軍は、ベトナムの通関当局と連携した調査の結果として「トルコ風呂は、韓国軍による韓国兵専用の福祉センター(Welfare Center=慰安所)」と断じた。 (中略) この米公文書は、週刊文春(4月2日号)でTBSの山口敬之ワシントン支局長が最初に発表した。 (2015年3月29日付け、産経新聞) 一方、この月の3日に詩織さん事件も発生していた。この事件については、BBCが迫真の映像化もしている。お酒に強い詩織さんにレイプドラッグを使用したなどの疑いもささやかれていた。いずれにせよ、2015年4月30日に高輪署で告訴状受理、6月に逮捕状発行、6月8日に成田空港で逮捕する予定が、中村格(当時警視庁の刑事部長)、安倍晋三、菅義偉が画策し、「本件は本庁で預かる」として山口の逮捕を止めた。日々たくさんの逮捕状が出される中で、この件だけを中村格がピックアップし、逮捕をやめさせて、現場捜査官のメンツを踏みにじった。このため、山口は恩返しとばかり、幻冬舎から「総理」の本を出した、いや、官邸が出させたのか。  高輪署での告訴状受理と同じ頃、安倍晋三は笹川平和財団主催のシンポジウムに出席してスピーチした。笹川平和財団はその見返りに、山口氏をアメリカの独立研究機関イースト・ウエスト・センターに派遣するよう求めた。詩織さんが同センターの担当責任者から聞いたところによると、毎年5~10人くらい受け入れているが、通常そのポジションを獲得するには、申請を通過しすべての要件を満たさなければいけない、山口の場合だけ笹川平和財団からの直接の依頼で、何の審査もなく決まったイレギュラーケースで、フェローとしての特別査証でアメリカに戻れた、という。しかもその条件は、2年間の任期で、その間に安倍首相の外交アプローチやベトナム戦争について研究し、笹川平和財団が1000万円の研究・生活費を負担する、というもの。  検察による捜査中にもかかわらず、山口はイースト・ウエスト・センターの客員研究員に選ばれるが、結局アメリカには渡らず、本人の依頼によって2017年3月29日に客員研究員の職を辞しているが。  2016年5月30日に山口はTBSを退社するが、6月9日に『総理』(幻冬舎)を出版。参院選に合わせたもので、選挙当日には新聞各社に広告が大きく掲載された。それだけでも御用記者ということが十分証明されている。8月9日の週刊ポストによる『総理』著者インタビューでは、  <〈アベ政治を許さない〉と言う人に限ってアベもアベ政治もよく知らない一方、好きな人は無批判に好きで、要はどちらも根拠や足場を持たないヘイトスピーチに近い> <安倍さんは厳しい意見も聞く耳は持っていますし、対等な関係を求める僕と馬の合う人がたまたま現政権には多いだけです> <大衆迎合や対米追従と違う論理があるんだろうし、国を二分する課題に一内閣でこれほど取り組む政権は、歴史的にも稀です> と語っている。 「〈アベ政治を許さない〉と言う人に限ってアベもアベ政治もよく知らないだって? 聞いてあきれるよ!」 と、僕は思わず憤慨してしまった。 「クワクワ。気持ちはよくわかるよ」 と、ペンペンは笑い転げている。僕の憤慨は止まらない。 「安倍さんは厳しい意見も聞く耳は持っていますだって? 野党の追及にしどろもどろな奴がそんな器の広いわけないだろ!」 「クワクワ。その通りだね」 「国を二分する課題に一内閣でこれほど取り組む政権? 言葉遊びもいい加減にしろよ。一気に戦争できる国にしようとしてるだけじゃん」 「クワクワ。その調子で成長していけば、いつか公安に注目してもらえるよ」  うーん、ペンペンの言うとおりかもしれない。  詩織さん事件はこの後次のように推移する。 ・2016年7月22日、嫌疑不十分で不起訴 ・2017年5月、先述の新潮の検証・告発記事が出る ・2017年5月29日、詩織さんが記者会見を開き、東京検察審査会に不服申立て ・2017年9月、検察審査会が不起訴相当の議決 ・2017年9月28日、詩織さんが民事訴訟 ・2017年10月26日、山口がこの日発売の月刊『Hanada』で全面否定 ・2019年12月18日、地裁が詩織さんの請求を認める ・2020年1月6日、山口が東京高等裁判所に控訴  その他にも詩織さんは、「米国じゃキャバ嬢だけど、私、ジャーナリストになりたいの!試しに大物記者と寝てみたわ。だけどあれから音沙汰なし 私にただ乗りして、これってレイプでしょ?」とツイッタ-に投稿した漫画家のはすみとしこ氏らに対して東京地裁に提訴。また、「彼女がハニートラップを仕掛け(た)」「被害者ぶるのもいい加減にしてください」等の投稿にいいねを押した杉田水脈衆議院議員に対しても提訴している。 「ペンペンの言うとおり、ごく一部なんだろうけど、慰安婦問題で国を援護する保守系文化人や政治家のレベルの低さが明確だね」と僕。 「このような意識レベルにいる限り、この問題は永遠に解決しないよ。そのほうが欧米各国にとっても都合いいしね」とペンペン。  この低レベルを証明する事件が続いた。署名偽造事件だ。
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