観覧車

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 それもそのはず、悠馬は父さんのことを知らない。  3年前の夏、家族4人でこの場所を訪れた。もちろん物心ついていない頃の彼が知っている訳がない。    その夏を最後に、父さんが家族の輪から外れたことも、彼は知らない――。  あの日、父さんは言った。    「悠馬が大きくなったら、また観覧車に乗ろう」  って。    そんなの、嘘だった。  数日後、朝起きると父さんは消えていた。金と冷蔵庫にあったパンだけを持ち出し、以後我が家に帰ってくることは無かったのだ。    その日の夕方に報じられたニュースを、脳内で再生出来るくらい、確かに覚えている。    『殺人事件の指名手配犯』  父さんは、殺人鬼だったんだ――。    母は、小さなかばんからスマホを取り出し、10個の数字の並んだ画面を開く。  彼女は1、1、と画面をなぞる。    0。    母の手は妙に震えていた。  
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