観覧車

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 母は悠馬と手をつなぎ、一緒にその中へ。  僕も2人についていった。  ドアがカチャン、と音を立てて閉まる。    「お楽しみ下さーい」  係員の女性がそう言うと、地面がだんだんと離れていった。    ふと、1つ上に乗っている人を見る。  黒いジャージを来た、男性だ。彼はタバコの煙を口から漏らし、空をじっと見つめていた。    (観覧車の中ってタバコ吸って良かったっけ?)  男性はタバコを持っていない方の手で、頭をポリポリと掻き、一瞬、耳を引っ張る。  その仕草を、僕は長いこと見ていた。  不意に、僕の口からポロリと一言、言葉が漏れた。  意図せず、何も考えず、ただただ出てしまった言葉。  「父さん……なんで、ここにいるの……」  母は「何を言って――」と口に手を当てる。  悠馬はなんのことかさっぱり分からず、そこから見える景色を指を咥えて楽しんでいた。        
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