1

5/10
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
 ちょっと怖くて値段が聞けないような洒落たコース料理だった。何だかよくわからない前菜、何やら美味しい魚料理、何やら美味しい肉料理、小さくて美味しいデザート。そんな感じだった。俺の脳味噌では理解が追いつかない。美味しいことはわかった。店内でのやり取りは他愛のないものだった。本社はどうとか支社はどうとか、宮城での生活はどうだとか。平和な会話だなあと思いながら聞いていた。俺はほとんど聞き役だった。それが嫌だったわけではない。むしろ聞き役が良い。俺はこの店の何やらムーディーな雰囲気を演出する照明か何かになりたい。皆さん俺のことはお構いなく。  が、食事の後そうとも言っていられないような状況になった。丈晴さんが宿泊先のホテルに行こうという時にこう言ったのだ。 「少し松下君を借りてもいい?」  二郎君が目を見開く。俺も驚いた。ただ、俺も二郎君も「嫌だ」と言える立場ではない。代わりに白波さんが割って入った。 「あー、丈晴さん、その」 「あ、ごめん変な意味じゃない。ただ、松下君にも話しておこうかなって」
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!