橋の向こうへ

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橋の向こうへ

8月、ソフトクリームみたいな入道雲が空に浮かんでいる。俺は野菜が入った段ボールを荷台に積み、自転車を漕いでいた。流れ落ちる汗を、首に巻いたタオルが受け止める。 俺の家は、商店街で青果店をやっている。中学最後の夏休み、俺は勉強でも部活でもなく、店の手伝いに精を出していた。暑過ぎると蝉も鳴かないのか、あたりはしんとしている。 ふと、言い争う声が聞こえた気がして、俺は自転車のブレーキをかけた。声は、渡井橋の方から聞こえてくる。夏休みの小学生が仲良く泳いだり、釣りをしたりしている──声ではなさそうだ。俺は渡井橋に近づいていき、そーっと下を覗き込んだ。橋の下には、干上がった川が見えるだけだ。連日の暑さで水がなくなったのだろう。思わず顔を顰めたくなる、いやな匂いがしている。 渡井橋は渡らない。 小学生の時、そういう標語を作ったのを思い出した。 渡井橋は、俺が住む第一町と、隣町の第二町を結ぶ橋だ。ちょうど学区の境目になっている。 第二町にある中学校は非常に評判が悪く、よく警察のお世話になっているという噂だった。
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