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5月
「こっちこっち~~」
早耶は店の入り口で店内を見渡す麻衣に向かって手を振る。
早耶は啓介と新居の内覧を済ませ、食事をとっていた。式前に、一度会わせたいと思っていた麻衣に連絡をとり、時間があればと会社帰りに合流してもらったのだ。
「初めまして~。早耶さんの友人の 里見 麻衣 です。」
並んで座った二人の向かいの席にバックを置きながら一礼する。
「あ、本間 啓介です。よろしく・・・」
啓介は、軽く頭を下げる。
麻衣が腰を下ろしたところで、店員がおしぼりと取り皿をテーブルに置く。
「ノンアルビール、あります?」
とたずねて注文する。
「あれ、飲まないの?」
早耶が尋ねると、
「うん、明日研修だから、一応アルコールは抜いとくわ。」
「そうだったの?ごめん、忙しいところ・・・」
「ううん、全然、時間はあるから。一杯飲むと、もっと飲みたくなっちゃいそうだからってだけ。」
麻衣は自嘲気味に笑った。
「おなかすいてます?」
啓介がメニューを差し出す。
「あ、ありがとうございます。・・・おなかは空いてます!何頼んだのかな・・・」
「唐揚げと、大根サラダは頼んでて、まだ来てない。これはだし巻きね。この空のお皿はポテサラが入ってた・・・」
「ごめん、おなかすいててばくばく食べてしまった。」
早耶の説明に啓介がビールを片手に言い訳する。
「ポテサラおいしかったですか?・・・じゃあ頼もうかな。あと、エビマヨも頼んでいい?」
「でた、エビ好き。すいませーん・・・」
早耶が店員を呼ぶ。ちょうど、麻衣のノンアルコールビールとグラスを手に持った店員がやってきた。
テーブルにビールを置いて、注文を取ってくれる。
「じゃあ、今日は私の親友と旦那さんの顔合わせってことで。」
「おめでとう~~」
三人で乾杯する。
「もっと前に会わせようと思ってたんだけど、結局直前になっちゃったね。」
「忙しいのに、気を使ってくれてありがと。・・・改めて、早耶さんをよろしくお願いします。」
麻衣がグラスを置いて、啓介の方に礼をする。
「いえいえ・・・こちらこそ、これまでと変わらず仲良くしてください。」
啓介もジョッキを置いて一礼し、
「仕事、忙しいんですか?」
と尋ねた。
「ああ、この4月から部署異動になって。新しい仕事覚えたり、研修受けたりで、ちょっと例年と違うことしているだけで・・・。ボリュームとしては、そんなに重くはないと思ってます。」
「それは、ちょっと大変ですね。」
「ちょっとだけね。」
麻衣は親指と人差し指でつまむようなジェスチャーをして笑う。
「麻衣はね、努力家なんだよ。大学受験もしっかり下調べしてたし、入学してからも就職先のことまで見越していろいろ調べたり、資格の勉強もしたりしてさ・・・」
「早耶だって、専門学校で身に着けた技術を元に手に職つけてるじゃん。私はそういう技術ないからいいなって思うよ。」
とお互いに賞賛しあいながら食事を進める。
「そうそう、今日、新居の内覧会でね。写真撮ってきたよ。」
早耶はスマホをアルバムを開く。
「わ、見せて~」
「これ見ながら、家具とか家電とか見に行かなきゃ・・・」
「楽しそう~。いいなあ~、そういうの好き。」
「女性はそういうの好きそうだね。」
啓介がジョッキを片手に二人が目を輝かせながら写真を覗き込んでいる様子を見ながら口をはさむ。
「あれ、あんまり好きじゃないですか?」
麻衣が啓介のほうを見て尋ねる。
「そんなに、こだわりはないかな。色味とか派手でなければ、基本的には任せようかと思ってるけど・・・あとは、予算ね。」
「そこは、啓介にしっかり押さえておいてもらおうかなって。私が暴走しないように・・・」
三人で運ばれてきた料理をつまみに、新居の話題に花を咲かせていた。
「今日はありがとうね。」
女二人になった帰り道、早耶は麻衣に礼をいった。
「え?何が?」
「忙しいのに。会う時間作ってくれて」
「えっ。そんなの、こちらこそ、だよ。わざわざありがと。」
麻衣は手のひらを左右に振りながらこたえた。
「基本的に、塩対応な人だからさ・・・。友達と会わせるの、初めてだったんだけど、大丈夫かなー、ってちょっと心配してたんだ。」
「んん、でも、気を使ってくれていたよね。話にも入ろうとしてくれていたし、問題ないんじゃない?」
と麻衣はフォローした。
「・・・ちょっと・・・、高校のときの彼氏と、雰囲気は似てるかも・・・?」
麻衣は記憶をたどるように目線を上に走らせる。高校の時の彼は、直接は合わせたことはないが、麻衣に写真は見せたことはある。
「あーーーー。私のタイプって、わかりやすいのかなーー」
早耶と麻衣は笑いながら歩いた。
「啓介がいたから、彼氏のこととかは、なかなか話せなかったでしょ。なんか愚痴りたいことあったら、聞くよ?」
早耶は麻衣に言った。
「あはは。大丈夫だよ。直紀のことは相変わらず特に進展ないし・・・。最近、一緒に異動になった同僚に、愚痴聞いてもらうこともあってさ。」
「へえ・・・。」
「入社年度は一年後輩なんだけど、この春の異動で同じ部署になってさ。席も隣だし、研修とかも一緒になること多くて・・・ランチとかで話する機会も多くてさ。なかなか私にない視点でコメントくれたりするから、面白いよ。」
麻衣は明るく笑う。
「早耶こそ、大丈夫?マリッジブルーとか」
「マリッジブルー?? 全然!」
今度は早耶が明るく笑う。
「楽しみすぎるよ。啓介は基本的には私のやりたいようにやらせてくれるし・・・。新しい家で、新しい家具で、新しい生活!お母さんにいままでやってもらってた家事をうまく回せるようになるまでは大変かもしれないけど・・・なんといっても、門限も気にしなくってもいいし!」
「そこ!?」
麻衣はツッコミながら笑う。
「ストレス解消のアイスクリームの量が減って、やせるかも!」
早耶も笑う。
早耶は駅前の自転車置き場に預けた自転車を引き取って、麻衣の横を押しながら歩いた。夜遅い帰り道、大きな声にならないよう話ながら家までの道を歩く。
「マリッジブルーとは違うけど、啓介が草食なのが、一緒に住むようになって変わってくれるかもしれないって期待はちょっとしてる。」
「それはそうでしょ・・・!一緒にいる時間長いんだし、一緒に寝るんでしょ?」
「うん、寝室は一緒だよ。」
「それは増えるでしょ・・・。それに、早耶から誘えば・・・」
「それはそうだけど、たまには向こうから誘ってほしい気持ちもある!」
早耶は少し力強く主張すると、麻衣は笑った。
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