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ちょっと気持ちが良かったので、僕は窓を少し開け、まどろんでいた。
すると、ヨーコの叫び声がした。
「あっ、チーコがいない!」
チーコとは、彼女が飼ってるネコのことだ。が‥‥
「ん。どうしたの?」
「どうしたの? じゃないわよ。どうして窓を開けたの? きっとチーコ、そこから逃げたのよ」
「えー。じゃ、僕のセイ?」
「そうよ。さー、早く捜してきて」
「まいったな‥‥」
と言いながらも僕は、まず窓の外を良く見てみた。
しかし、チーコはいなかった。
「もし今日中に見付からなかったら、晩ご飯、減らすから」
「トホホホ‥‥」
とは言ったが、晩ご飯くらい、自分でなんとか出来る。
本当のトホホホ‥‥は、今日中にチーコを捜せというヨーコの命令だった。
やっぱり、あの女との同居は、考え直すべきか‥‥?
そんなことを思いながら、僕は、自宅マンションから表通りに通じる路地の隅々を見ては、「チーコ、チーコ」と捜していった。
そんなに大事なネコなら、ヨーコ自身が責任を持つべきだろう‥‥と思いながら。
まったく、とんだことで、せっかくの休日がパーだった。
とりあえず本通りまで捜したが、チーコはいなかった。
なぜ本通りまで――としたか? 本通りは車両の往来も多かったから。
そして戻ろうとした時、横の古寺から、ニャー、という鳴き声が聞こえた。
僕は、昼食前だったので、一旦帰りたかったが、ヨーコの小言を聞くのがイヤだったので、行ってみることにした。
その古寺に入るのは初めてだった。
古い鳥井を抜けると、小さなお堂があるだけだった。
「チーコ、チーコ」
と呼びながら、お堂の裏に回ってみた。
すると何故か、白い霧が渦巻いていた。
僕は怖くなって戻ろうとした。すると、
「ニャー‥‥ニャー‥‥」
「チーコ、そこにいるのか?」
仕方なく僕は、その霧の中へ、一歩、入った。
その直後、僕は坂道を下ることになった。
「うわー!」
見ると、その先で待っていたのは、ライオンだった。
ライオンは僕に向かって、大きな口を開いていた。
僕は、思わず目を閉じた。
が、やがて僕の歩調は落ち着いた。
僕が目を開けると、そこにいたのは、チーコだった。
僕はチーコを抱き上げながら、
「まったく‥‥ペットは飼い主に似るって本当だな‥‥」
すると、まるで詫びるように、チーコは僕の頬をペロペロなめた。
僕が、あまりの気持ちの良さに、チーコをより近付けようとした時、逆の頬を
ペロペロなめる者がいた。
僕が、あれ? と振り向くと、それはヨーコで、
「ヒロシ、だーい好き!」
お陰で僕の頬は、ベチャベチャになったのだった。
――おしまい――
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