『そこには?』8:ネコ(ミステリー)

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
ちょっと気持ちが良かったので、僕は窓を少し開け、まどろんでいた。 すると、ヨーコの叫び声がした。 「あっ、チーコがいない!」 チーコとは、彼女が飼ってるネコのことだ。が‥‥ 「ん。どうしたの?」 「どうしたの? じゃないわよ。どうして窓を開けたの? きっとチーコ、そこから逃げたのよ」 「えー。じゃ、僕のセイ?」 「そうよ。さー、早く捜してきて」 「まいったな‥‥」 と言いながらも僕は、まず窓の外を良く見てみた。 しかし、チーコはいなかった。 「もし今日中に見付からなかったら、晩ご飯、減らすから」 「トホホホ‥‥」 とは言ったが、晩ご飯くらい、自分でなんとか出来る。 本当のトホホホ‥‥は、今日中にチーコを捜せというヨーコの命令だった。 やっぱり、あの女との同居は、考え直すべきか‥‥? そんなことを思いながら、僕は、自宅マンションから表通りに通じる路地の隅々を見ては、「チーコ、チーコ」と捜していった。 そんなに大事なネコなら、ヨーコ自身が責任を持つべきだろう‥‥と思いながら。 まったく、とんだことで、せっかくの休日がパーだった。 とりあえず本通りまで捜したが、チーコはいなかった。 なぜ本通りまで――としたか? 本通りは車両の往来も多かったから。 そして戻ろうとした時、横の古寺から、ニャー、という鳴き声が聞こえた。 僕は、昼食前だったので、一旦帰りたかったが、ヨーコの小言を聞くのがイヤだったので、行ってみることにした。 その古寺に入るのは初めてだった。 古い鳥井を抜けると、小さなお堂があるだけだった。 「チーコ、チーコ」 と呼びながら、お堂の裏に回ってみた。 すると何故か、白い霧が渦巻いていた。 僕は怖くなって戻ろうとした。すると、 「ニャー‥‥ニャー‥‥」 「チーコ、そこにいるのか?」 仕方なく僕は、その霧の中へ、一歩、入った。 その直後、僕は坂道を下ることになった。 「うわー!」 見ると、その先で待っていたのは、ライオンだった。 ライオンは僕に向かって、大きな口を開いていた。 僕は、思わず目を閉じた。 が、やがて僕の歩調は落ち着いた。 僕が目を開けると、そこにいたのは、チーコだった。 僕はチーコを抱き上げながら、 「まったく‥‥ペットは飼い主に似るって本当だな‥‥」 すると、まるで詫びるように、チーコは僕の頬をペロペロなめた。 僕が、あまりの気持ちの良さに、チーコをより近付けようとした時、逆の頬を ペロペロなめる者がいた。 僕が、あれ? と振り向くと、それはヨーコで、 「ヒロシ、だーい好き!」 お陰で僕の頬は、ベチャベチャになったのだった。 ――おしまい―― 、
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!