図書委員

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柵はかなり老朽化していたようで、これを機に店全体の改築を検討する、と橋本夫妻が言っていた。 日も傾いており、僕と香住さんはその後すぐ解散した。 ぴろん。 携帯に通知。 開けば、先程僕が送ったメッセージに香住さんが返信してくれたようだった。 一緒に学校行きませんか、そう送った。 まだ寝ているかと思ったが。 『拝命しました』 その六字と、敬礼する猫のスタンプ。 思わず口元が緩む。 僕はカバンをとり、家のドアを開けた。 と、 「香住さん!?」 ドアの前でにこりと彼女が微笑む。 「えへへ。来ちゃいました」 「住所、言ったっけ」 「いや、あの、帰るところをよく見るので。それとゴミ出しの日から、このへんかなぁって」 「友達の家をゴミで推測する人初めて見たかも」 僕が迎えに行くつもりだったんだけど。 僕が彼女の家を知ってる理由はノーコメントだ。 「あの、べ、別にゴミフェチとか鈴木さんがゴミだとか言ってるわけではなくて…」 「言われたら軽くショックだなぁ」 前言撤回。たぶん軽くないダメージになる。 あわあわしている香住さんに笑いかけ、行こうか、と促す。 登校時間まで、まだ余裕がある。 ゆっくり歩き出す。 香住さんが口を開いた。 「どうしたんですか?急に、一緒に学校行きませんか、なんて」 「監視するため」 自然に口をついて出た。 「えっ…それって世間一般で言う、ストーカー…ってやつですか」 「いや違うって!そんな趣味は持ち合わせてないから」 焦った。 確かにそうととれないこともない。 「世界、終わらせようとしたら止められるように」 「…もう大丈夫ですよ。鈴木さんに言われて考えなおしました」 「本当に?」 「はい、米に誓って」 「…米?」 神に誓って、っていうのは一般的によく聞くが、米は聞いたことない。 「一粒のお米には八人の神様がいらっしゃる、って言うじゃないですか。なら、よりたくさんの神様に誓えると思って」 「…同じ神様なのかな、それ」 豊作や農業関連とか、神様も分担しないと大変そうだけど。 香住さんが口を手で覆った。 「…忘れてください」 「米に誓って、と」 「なんでメモするんですか!」 ポケットからペンとメモ用紙を取り出して、文字を書く。 先生等に雑用を頼まれたとき用に携帯しているのだ。 「没収です!」 香住さんが僕からメモを奪い取り、目を丸くした。 『付き合ってください』 直接口に出すのはハードルが高かった。 ゆるゆると僕に視線を戻す香住さん。 その碧にうつされて、頬が赤くなっていくのが分かる。 「あ、えっと…」 「よろしくおねがいします!」 期待と不安は驚きと喜びとして二倍に膨れ上がって、僕は香住さんをバッと見る。 この世界で一番綺麗な碧色が、照れくさそうにはにかんだ。
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