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「えっと…まず、図書委員の仕事について説明した方がいい?」
「はい、お願いします」
放課後、僕たち以外誰も使っていない自習室で向かいあって座っていた。
図書委員の仕事…やったことはないが、前の学期と去年分の資料を照合すれば分かるだろう。
「図書委員の日頃の主な仕事は、読書の促進と学級文庫の管理、それとこのクラスの図書委員は、毎週火曜日に図書室で当番を任されてる。3年生と2年生の一から五組で、一組は月曜日、僕ら二組は火曜日、三組は水曜日、四組は木曜日、五組は金曜日。ここまでは大丈夫?」
「はい。…今日は、木曜日ですね。当番、できないかもです」
香住さんが真面目にメモを取りながら、香住さんが苦笑する。
「当番ができない?何か予定があるんですか?」
「…秘密です。あとでお教えしますね」
秘密を握った魔法少女みたいに、あどけなくも少し意味深に笑ってみせた香住さんは、いつもの彼女とは違って何かどきりとさせられるような魅力があった。
「じゃあ、次に。学級文庫の返却を呼びかけるポスター作りに入ろうと思うけど…」
僕と香住さんは、画用紙とペンを用意し作成を開始した。
「私、文言をあらかじめ考えておきました。鈴木さんに校閲してもらって許可が出れば、それを書こうと思います」
「わかりました。みせてもらいますね」
仕事が早い。いや、用意がいいと言うべきか?
ふむ…。
彼女の文章に目を通す。
意外に几帳面な性格らしいことが窺える筆跡だ。
「これなら大丈夫だと思います」
「本当ですか?なら、清書していきますね。鈴木さんは学級委員のお仕事とかあればこの時間に」
「ありがとうございます」
僕は学級委員のファイルを開き、次の学級会の資料に目を通す。
次の議題は、髪を染めている人が多いことと校則の再確認…。
「鈴木さん」
「はい?」
画用紙にペンで清書しながら、香住さんが器用にも僕に話しかける。
「さっき、当番できないかもしれない…って言ったじゃないですか」
ああ、図書当番の話か。
「何か予定があるんですか?」
ふと目線を上げると、まるで世界の淵に取り残された天使が笑っているような…底知れない不安と魅力が背中を向けあって同居した表情を、香住さんが浮かべていた。
「理由。知りたいですか、鈴木さん。」
「…はい。差し支えなければ」
そこまで話したことのなかった彼女だが、何がそこまで僕を惹きつけているのか、今それを知らないという選択肢はなかった。
「じゃあ、教えてあげますね」
香住さんは笑みを可憐に深める。
さらりと前髪が落ち、ラピスラズリを思わせる深い青色の瞳が僕を覗き込んだ。
「明日。世界を終わらせるんです」
「…どういうこと?」
「終わらせる…終わるんです。世界は」
また、彼女の独特の比喩だろうか。
「ええと…明日、欠席するんですか?」
「世界は終わるの」
相変わらず笑ったままで、香住さんは言う。
「ごめん、どういうことか僕にはよくわからない」
「大丈夫ですよ。よくありますから」
よくありますから、という言葉に僕は引っ掛かりを覚えたが、香住さんは作業を再開した。
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