図書委員

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僕が資料を捲る音と、彼女が画用紙にペンを走らせる音しか聞こえない。 苦しい静寂ではないのが不思議だった。 「…香住さん」 「はい?」 資料からちらりと顔を上げて彼女を見る。 肩にかかった黒髪がさらりと机に落ちて、影を作る。 「猫…好きなんですよね」 「猫、ですか?」 彼女は一度手を止めて、不思議そうに僕を見た。 「確かに好きですけど…どうして?」 「あ、いや…シャーペン、猫だから」 今日も見てたから…なんて言えない。 と、香住さんは困ったように眉を下げた。 「えっと、なんで知っているというよりは、なんで今、猫なのかなぁって…」 「あ」 しくじった。 まるで僕が香住さんの情報に敏感になってるみたいじゃないか。 と、斜め後ろから視線を感じる。 僕はちらりと視線を向けた。 香住さんが僕の視線を追い、気づく。 視線の先では、水澤とその取り巻きたちがニヤニヤと僕達を見ていた。 また冷やかしに来たのか…。 僕と目が合い、水澤たちは立ち上がってこちらへ来た。 「やっほー、香住ちゃんに鈴木。放課後に図書室でいっしょに作業とかさ、ラブラブじゃん」 「見せびらかしたいんじゃない?」 「苛つくよね」 はあ…。 ため息を飲み込む。 香住さんが可愛らしい猫のシャープペンシルを握りしめるのが視界の端に見えた。 「水澤。今僕達がやってんのは、水澤たちに頼まれたポスターの作成だ」 「だからって図書室でいちゃつかなくてよくない?はいはい、良いよねぇラブラブなお二人は」 「だから、そういうんじゃないって言ってるだろうが」 だが、水澤と取り巻きたちは聞く耳を持たないようだ。 全く、なんで僕達がこんなに振り回されなきゃいけないんだ。 コイツに話は通じない。 「香住さん。場所を変えようか」 「あ、えっと…」 「あは、そうしてそうして。はい決定。香住ちゃん邪魔ー。どいて」 香住さんが戸惑っているにも関わらず、水澤は香住さんを押し退けて椅子に座った。 「おい、水澤!」 「あー、怒った?あははっ、そんなに熱くならないでよ鈴木ぃ」 僕が眉を顰めて水澤の肩を摑もうとすると、腕が引かれた。 引っ張られた方に視線を向けると、香住さんが申し訳無さそうな表情で僕を見上げていた。 「あの、大丈夫です…水澤さんはどうしてもここに座りたいらしいから…」 違って捉えた香住さんに、水澤が不機嫌そうに眉をはねた。 「何、私のせいにするの?香住ちゃんがどくっていうから座っただけなんですけど」 「え、そうだったんですか。ごめんなさい、あの…」 「香住さん。行こう」 こくんと頷いた香住さんと荷物をまとめ、席を離れた。 その様子をにやにやと見ていた水澤たちの方を振り向かないようにして、図書室を出る。 扉が閉まるその瞬間まで、視線は粘っこく僕達に絡みついていた。 「…ねぇ、水澤」 「何よ」 図書室の机でスマホをいじる水澤に、取り巻きの一人が声をかけた。 視線をスマホに向けたまま、水澤が不機嫌そうに答える。 「これでほんとにいいの?鈴木、だいぶ怒ってたけど」 「うっさいわね」 深いため息をついてスマホを伏せる。 「香住ちゃんなんかを鈴木、なんで庇うんだよ…あたしのほうが可愛いのに」 「弱音吐いてる水澤、確かに可愛いわ」 「あんたに言われても嬉しくないのよ」 はいはい、と適当に返して椅子に座る取り巻き。 水澤はちらりと、二人が去った方に視線を向けた。
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