図書委員

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「か、可愛い…!」 僕達は、近くのカフェに来ていた。 保護猫カフェ。 拾われた捨て猫たちが、人間に慣れる訓練も兼ねてかカフェにいて、猫によっては触れ合うこともできる。 その扉の前で、看板猫のリリィの背中を撫でながら、彼女は頬を緩めていた。 彼女の無防備な表情に、僕も和む。 猫が好きな香住さんは喜ぶだろうと思い、 通学路の途中にあるこのカフェに連れてきたのだ。 少し古いが、大きめのカフェだ。 この間、従業員の一人が「最近、いろんなところが老朽化していて困る」とぼやいていた。 ここには現在、十八匹の保護猫たちが暮らしている。 中でも人気なのが、一番最初にこのカフェを運営する橋本夫妻の元へやってきた保護猫、リリィだ。 人懐っこく、愛想の良いやり手の看板猫である。 「こんなお店、学校の近くにあったんですね」 「僕もよく来るんだ。ここにいる猫だけど、まず黒と白のリリィが看板猫で一番の古株。クッションで丸まってる黒いのがくまる。首に銀色の鈴がついてる猫がすず。あそこのキジトラが吾郎、あの真っ白な猫が白雪」 僕はコーヒーを一口だけ口にして、視線をぐるりと巡らせた。 座敷の席が取れてよかった。この席なら猫たちとより近くで触れ合える。 「あそこの子猫は双子の鶴太と亀太。あのガタイのいいのがデデ、茶色と白のぶちがあるのはみかん。あそこの長毛種の子猫が桃さん。綺麗なロシアンブルーがいるの、わかる?あのこがウル。その隣の三毛猫がすずの姉御分のベルで…」 僕は十七匹全てを香住さんに紹介した。 店の前に捨てられていて橋本夫妻に拾われた、リリィ。 生後三ヶ月ごろに保護施設から最初に連れてきた、くまる。 やんちゃですぐどこかへ行くから首に鈴をつけた、すず。 オス猫のまとめ役、元野良猫のボスだった吾郎。 家の倉庫で生まれて親が亡くなり、引き取った白雪。 小柄だったためブリーダーに捨てられた、マンチカンの鶴太と亀太。 勢いよく走るその音から名前をつけられた、三本足のデデ。 みかんの段ボール箱に入ったまま見つかった、みかん。 みんなに世話を焼いてもらえる王女様だからさん付けの、片目の見えない桃さん。 血統書付きのロシアンブルーだけどペットショップで売れ残って捨てられた、ウル。 何かとすずの世話を焼く、元野良猫のベル。 デデの弟分、事故で右前足を失ったドド。 赤ん坊に噛み付くからと新婚夫婦に捨てられた、ミルクが大好きなモカ。 運動神経が抜群で、生まれつき右耳が不完全なすばる。 前の飼い主に虐待を受けていた、クールなライア。 生まれつき体が弱く、大人しいまあぬ。 ふさふさの尻尾がチャームポイントの、エス。 ここにいる猫たちはみんな、体に不自由なところがあって捨てられたり、野良猫だったのを拾われたりした事情を抱えた猫たちだ。 それでもここで幸せに暮らしている。 「こんな場所あったんですね…」 「さっきも同じようなこと聞いたけど…」 寄ってきたすずの喉を撫でながら、香住さんが言ったことを苦笑しながら聞く。 透き通った碧色の目を盗み見ながら。 「ていうか、すず、もう懐いてるね」 「ふふ、嬉しいです…。あ、お腹見せてくれた」 なぁご、と泣いてごろりとお腹を見せるすず。 と、そこへ姉御分のベルがやって来た。 すずを押し退け、香住さんの膝にでんっと上半身を投げ出した。 「この子は何がしたいんでしょう?」 「あー、ベルは警戒心強い方っていうか…安心してもいいか、すずが甘えてもいいか判断するために、すずを触るなら私からにしなさい…みたいな」 「なるほど…。頼りになるお姉さんですね」 よしよぉし、とベルを撫で回す香住さん。 「あ!見てください鈴木さん」 ベルと、寄ってきたずずに頬を緩めていた彼女が、くるりと僕を向いた。 こっそり眺めていた綺麗な碧が僕をうつして、動揺する。 慌てて平常心を取り戻し、改めて視線を向けた。 すると、香住さんはベルのほっぺたをぶにっと伸ばしてこちらを向いていた。 「ベルちゃん、おまんじゅうみたいになっちゃいますね!あははっ、可愛い…!」 ベルのまんじゅう顔を覗き込んで、無邪気な笑みを浮かべる。 「鈴木さん!写真っ、写真撮ってください!」 「あ、え?写真?」 「はい!お茶請けにしたいんです」 お茶請け…というのはよく分からなかったが、とりあえず撮っておきたいのだろう。 スマホを取り出して、パシャ、バシャと何度かシャッターを切る。 その中の一枚を選んで彼女に見せた。 「こんなのでいいかな?」 「おぉお…鈴木さん、写真撮るのお上手ですね。良ければ、私の連絡先に送っていただけませんか?」 「あ、うん」 ちょっとだけお待ち下さい、と香住さんが鞄を漁る。 「…あれ、ここに入れたはず…。すみません鈴木さん、15秒数えていただければその間には…」 「…えっと」 僕がテーブルの上、つまり香住さんのほぼ目の前にあった彼女のスマホを渡すと、香住さんは白い肌を赤らめた。 「あ、そんなところに…すみません」 「いや、いいけど」 「では、連絡先を!」 普段使わないのだろう、慣れない手付きでスマホとにらめっこしているのをちらりと見、僕は香住さんの膝で喉を鳴らしているベルの腹に手を伸ばした。 小声で囁く。 「連絡先ゲット。でかしたぞベル」 「みゃあ?」 ベルが首を傾げ、ふらっと立ち上がって壁の方へ言ってしまった。 膝のもふもふがいなくなり、香住さんが「あっ」と声をあげた。 「ベルちゃん…撫でてなかったからお臍曲げちゃったんでしょうか」 「いや、そうでもないかも」 ベルよりも軽いすずがばふっと膝に跳び乗る。 そのままごろりと横になった。 「なぁう」 ベルは、撫でられて嬉しそうに目を細める妹分を、キャットタワーの上から見下ろしていた。
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