図書委員

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「それじゃあ、これで完成かな」 「はい!」 ポスターが完成した。 ふう、と息をつく。 そこまで時間は経ってない。 「疲れました…すずちゃん、癒やしてください。ウルちゃんもエスちゃんもすばるくんも可愛いですねぇ」 香住さんがのびをして、猫たちに柔らかく笑みを浮かべる。 ウルとエスがじゃれ合っていて、すずはさっきから彼女のまわりをうろうろしている。 すばるは、彼女の作業が終わったと見るなり懐にとび込んで跳び跳ねていた。 「すばる…お前に女の子の膝は100年早い…!」 「どうかしましたか?」 「いや、何でも」 もう少しここでゆっくりしようか。 「香住さん。僕、飲み物貰ってくる」 「え、も、申し訳ないですそんな」 「いいから、ゆっくりしといて。すぐ戻ってくる」 香住さんがぺこりと頭を下げ、丁度ぴょんと跳び上がったすばると頭をぶつけた。 「いたっ」 彼女に見えないように小さく吹き出す。 「コーヒーを二杯、お願いします」 新しく二杯貰い、会計を済ませる。 さて、少し並んでいたので時間がかかってしまった。 何をしているかな…ん? ウルとエス、そこにみかんが加わってじゃれ合っている。 すばるは香住さんが座っていた座布団にちょこんと座っていた。 でも、香住さんはいない。 お手洗いだろうか? と、コーヒーを置いた机に置き書きをみつけた。 ええと…「すずちゃんがいなくなってしまったので、探してきます」。 そういえば、ベルが落ち着かない様子でさっきからおろおろしているな。 すずのやつ、またいなくなったのか。 見渡しても、見当たらない。 探しに行くか。 迷子になってるかもしれないし。 「変わってるよね」 「変なコ」 「意味分かんない」 「おかしいんじゃないの?」 それが、私の立ち位置だった。 みんなと同じになれない。 私だけ別のところに立っているみたいだった。 だからこその、明日。 待ち遠しいような、そうでないような。 なんで私はみんなと同じ場所に立てないんだろう。 ずっと不思議だったし、悲しかった。 わからないからだ。 ただ一度、同じ場所に立てなくても私が私でよかったと、一度だけふいに思ったことがある。今もよく覚えている。 「香住さんらしくて、いいと思うよ」 ありふれた言葉だろう。 この幸福な世の中に溢れた言葉、それでも私は掛けられたことなどなかった。 私らしくていい、なんて、せいぜいまた外れたことを言った私への慰めでしかなかった。 だから、嬉しかった。 たとえ嘘でも嬉しいと思った。 学級委員の彼を目で追うようになったのはそれからだ。 それが一緒に猫カフェ…とか、夢を見てるとしか思えないけど。 でも、そうじゃないことを知っている私と、それを喜ぶ私がいるのも事実なのだ。 「すずちゃん、どこにいるんですか?」 お手洗いのある廊下を進んでいき、綺麗な白い毛並みの猫、すずちゃんを探す。 いないなあ…。 戻って鈴木さんに行きそうな場所を聞いてみようか。 あれ?お手洗いの先の突き当りにドアがある。 立入禁止の張り紙がないのを確認し、ノブをガチャリと回してドアを開ける。 「テラスだ…」 のどかな住宅街を高みの見物と洒落込むのに最適な、のんびりした景色。 …なんて言ったら、また皆は笑うんだろうか。 そう思って苦笑し、ざっと見回してドアを閉め…、 「なぁお?」 「っ、すずちゃん!」 テラスの柵ですずちゃんが蝶々を捕まえようとしている。 カツカツ、と柵の表面に爪が当たって音をたてる。 「危ないよ、おりておいで!ほら、こっちに…」 「なぉご…」 首を傾げて、また蝶々に手を伸ばす。 と、すずちゃんの足が柵の上から外れた。 「すずちゃん!!」 柵に身を乗り出し、白い体を捕まえる。 よ、良かった。  ガコンッ …え? 折れた柵が、逆さまになった視界にうつった。 うそ、 体が宙におどった。
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