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掃除屋から煽り屋へ
「叔父様~何してるの?」
下都賀凜は、事務所で何やらせかせかと立ち働く下都賀拓実に話しかける。
「うん?凜に継がせるにあたって、掃除屋から煽り屋に下都賀家の家業を変えようと思ってな、改装開店準備中だ」
「煽り屋?」
女子高生らしくセーラー服姿の凜は首をかしげる。
「ああ。掃除屋の仕事は、かいつまんでいえば邪魔者を消すこと。暗殺も厭わない。そんな血生臭い家業よりも、人の怒りを煽って同士討ちに追い込む、煽り屋の方が頭脳戦で腕力は要らない。凜が継ぐのなら、煽り屋の方がいい」
凜は拓実の仕事机を両手で勢いよく叩く。
「私は代々続く、掃除屋下都賀家の末裔よ。流石に叔父様には敵わないけれど、格闘術でも負けたことがないわ!煽り屋なんて反対!」
拓実は煙草に火をつけて一服してから、凜を冷たい目で睨む。
「俺に勝てない時点で、向いてないってわからないのか。もしも俺が死んだらどうする?誰も助けてくれないぜ。それでも一人で掃除屋を続けるのか?」
凜は少し考え込んでから、唇を噛みしめた。
「それまでに…それまでには強くなるわ」
拓実は、鼻で笑った。
「お前は舐めてるな、裏稼業を。代々続く下都賀家を継ぎたいなら現実を見ろ。邪魔者を消すのが下都賀家の宿命。しかし、直接手を下さなくても済むやり方はある。格闘で勝てない相手でも頭脳戦で勝てるなら、手段を選ぶな。綺麗事を言ってる間に殺されるのがこの世界だ」
凜はいつもと違う冷淡な拓実の様子に戸惑いつつも、拓実の顔を心配そうに覗き込む。
「叔父様…もしかして大病でも患ってるの?死んじゃ嫌よ。父も母も亡くして、頼りは叔父様だけなのに…」
凜の泣きそうな顔を見た拓実は、大真面目な顔で答える。
「ああ、その通りだ。恋の病で瀕死さ。お前を一人前の煽り屋にして、俺は名ばかり顧問になり、顧問料だけせしめて悠々自適に美女を集めてハーレム暮らしを満喫!」
呆れ返った凜が、怒鳴りつける。
「自分が楽をしたいだけじゃないですか!ついでに言うなら、叔父様の女好きは立派な依存性です。ちゃんと医者に診て貰ってください!」
「まあ、そう怒るなって。自分の手を汚さずに対立を煽って邪魔者を消す。煽り屋で学ぶことも多いはずだ。ちょうどいい依頼も来てることだし、食わず嫌いせずにやってみないか?」
「ちょうどいい依頼?」
「ああ。でもな、凜が煽り屋に反対なら俺一人でやるしかないな、どうする?」
「叔父様の意地悪。煽り屋、やればいいんでしょ、もう」
拓実はニヤリと笑って、依頼の資料を凜に渡した。
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