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「ゆ、祐ちゃん?」
「いいから、支度して。 早くしないと、迎えが来てしまう」
「む、迎えって…」
と、戸惑う声を上げる甥っ子・海斗に高校の制服を着せ、どこからかマリンブルーのチーフを持ってきた祐はその形を整えると、海斗に着せた夏服の胸ポケットへそれを押し入れ、整えるために再び指をかけた。
「祐ちゃん…」
ささやかな鳥のさえずりのように鳴き、縋るような眼差しで見つめる瞳を見下ろすと、祐は不安げな顔つきをしている海斗を安心させるような笑みを口元に浮かべ、口を開いた。
「大丈夫、カイトは何も心配しなくていいから。 僕の代わりに、楽しんでおいで」
それだけ言うと、祐は、どうしてこんな時間に制服に着替えなきゃならないの、なんで今から出かけなくちゃならないの、という言葉を海斗に言わせぬ力強さで腕を引き、外へと導いた。
声も発せず、足をもつれさせながらも祐に続いて外に出た海斗は、黒塗りの立派な車が横付けされているのを見ると、驚きから目を瞬かせた。
そんな海斗を尻目に、スーツ越しでも分かる厚い胸板を有した男が、祐たちに向かって恭しく頭を下げる。
「祐ちゃん」
上背のある祐を見上げ、ただひたすら戸惑い叔父の名前を呼ぶことしかできない海斗を見下ろした祐は微笑むと、髪を結っていたゴムを外し、小柄な甥っ子に優しく語りかけた。
「カイト。この黒い馬車に乗っていけば、必ず、キミの『願い』は叶えられる。 だけどそれは、一歩間違えれば甘いお菓子なんかじゃなく、苦い薬になってカイトを苦しめるものになるかもしれないってことだけは、忘れないで」
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