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(…本当に、大丈夫なの?)
祐の言うことを信用していない訳ではないが、どうしても不安な気持ちに駆られてしまう。
こんな日暮れに一人きりで出かけるのも初めてだし、一人きりで知らない場所へ行くのも初めてのことで、どうしても不安な気持ちに苛まれてしまう。
大丈夫、楽しんでおいで、と、祐は言っていたが…
「ほんとに、大丈夫かなぁ…」
外の風景を楽しもうにも中からは見えないし、運転席の方を見ようとしてもこちら側との間に仕切りがあり、完全に密封された個室状態で何もできない。
どこに行くのかも分からないし、日々の暮らしには絶対なかった高級感にも落ち着かなくてそわそわするし…
と、何をしたらいいのかも分からず、ただいたずらに時間を持て余すうちに──…
どうやら緩やかな眠気に誘われ、眠ってしまっていたらしい。
「…と様、海斗様。 大変お待たせしました」
という、耳慣れない声で名前を呼ばれはっと目を覚ますと、いつの間にか運転席との間にあった仕切りが外れ、運転手がバックミラー越しに海斗へ呼びかけていた。
「屋敷に到着いたしました。 支度を整えられてください」
「はっ、はいっ」
シートに横たわっていたせいで、ワイシャツによれができていないか確認していると、
「足元にボックスがございます、中から一つお好きなものを選び、お付けください」
と再び話しかけられ、慌てて足元を確認した。
(! これのことかな)
黒の内装と同化していて気がつかなかったが、言われて見れば確かにアクセサリボックスのような箱が海斗の足元にあった。
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