蜘蛛の糸

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 日暮れの早い秋の終わり、ビルディングや店のショーウィンドウが一斉に夕映え色に染まる時間に、横(よこ)呉(くれ)太一(たいち)は『テーラー倉本』の扉を開いた。ドアの上に付けられたベルが深みのある音で来客を伝える。まもなく店に店主が現れる。ボーラーハットを被り、グレーの三つ揃えのスーツを着た細身で背の高い男性だ。歳の頃は四十代の後半くらいか。 「いらっしゃいませ。ごゆっくりご覧ください」  店主は感じの良い挨拶をする。太一は少し迷ったのち、 「あの、すこし、変わったものを探しているんだけど。この店にあるらしいって、ちょっと小耳に挟んだんでね。来てみたんですよ」  と言った。横呉太一は今年で46になるが、まるきり年相応に見てもらえない。身長は155センチしかないし、どう見ても童顔なので、「若く見える」を通り越して、「子供に見え」てしまうらしいのだ。ビールを買おうとして身分証明書を要求されることなどしょっちゅうだ。だから初めてのひとに会うときは、つい気張った喋り方をしてしまう。 「変わったもの、と言いますと」  店主が目の端を少し光らせた。太一は勇気を出して口にした。 「実は―――蜘蛛の糸で作った服があるって聞いたんですよ」
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