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「ぼく、五十嵐慶っていうんだ。三組にいる。山田さんは七組でしょ?」
なんとかうなずいてみせる。正直、話がぜんぜん頭に入ってこない。
「よかったら、ぼくとなかよくしてほしい」
「え?」
思いがけない言葉に、わたしは初めて五十嵐くんをちゃんと見た。
人間の姿の五十嵐くんは、目も鼻も口も薄く、どこかはかなげな線をしている。薄い色の芯で描いたような、そんな印象。
どことなく、おとうさんに似ていた。
「ど、どうしてわたしと?」
「どうしてって、特に理由はないけど。理由がなきゃだめ?」
「あ、いや、そんなことは」
ない、けど。歯切れわるくこたえる。
「ぼく、家族以外でエイリアンって、初めて会うんだ」
「あ。じ、じつは、わたしも」
「ほんと?」
ぱっと輝く五十嵐くんの瞳。いまはちゃんと、白目がある。
だけど、さっき見た完全体の目は、あきらかにわたしとおそろいの目だった。
仲間――。
「だからさ、エイリアン同士、なかよくしようよ」
五十嵐くんが、なんのためらいもなく手を差しだしてくる。
それだけで、わたしの胸はあつくなった。
この手も、よく気味わるがられる。妙に長くて、へんなふうに関節がまがっているから。
おずおずと手を差しだす。五十嵐くんは、さっとわたしの手をとった。
「よろしくね。ミラ」
友だちができた。
そう報告すると、市ヶ谷くんはやっぱりよろこんでくれた。
「五十嵐くんって、五十嵐慶くんだろ? 三組の」
きょうもきょうとて、アイスをしゃくしゃく。市ヶ谷くんはいう。
きょうは、わたしの手にも檸檬色のアイス。市ヶ谷くんが買ってきてくれた。いつもどこで買ってくるんだろう。学校を抜け出してアイスを買いに行くなんて、すごい度胸。
「市ヶ谷くん、五十嵐くんのこと知ってるの?」
「ああ。しゃべったことはねえけど、たしか、すげえ頭がいいって」
「そう、なんだ」
市ヶ谷くんに五十嵐くんのことほめられるの、なんだかうれしい。
あこがれのひとに自分の友だちがほめられるって、こんなふうにうれしいんだ。
しゃー、しゃー。きょうは、いつも以上に筆がのる。
ノートに輪郭を描いていく。どことなく、五十嵐くんに似ているかもしれない。
「接点ないのに、よく友だちになれたな?」
「えっ。あ、ああ。ええっと、それは。お、落としものを拾ってもらって。それが、その、きっかけ」
うそだから、しどろもどろになる。
五十嵐くんは、たぶん、自分がエイリアンだということをまわりに伝えてはいない。だから、ほんとうのきっかけを教えてしまうわけにはいかない。
だけど、市ヶ谷くんにうそをつくの。ちょっといやだな。
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