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「え? 漫画?」  五十嵐くんはわらった。笑った、じゃなくて、嗤った。  心臓から喉にかけて、ひゅっとすきま風が吹く。背中が、なめられたように冷たくなる。  とっさに、ノートをバッグに戻した。 「エイリアンが漫画なんて描いて、どうするの?」 「あ、いや、その。どうしたい、とかじゃなくて。ただの、趣味で」  口元がひくつく。前髪を直すふりをして、目を隠した。 「あー、趣味ね。趣味なら、まあ」 「う、うん」 「ミラこそ、勉強がんばったほうがいいと思うけど」 「え?」  漫画と勉強が、どうつながるのかわからない。  五十嵐くんは、にっこりほほえんだ。 「就職、たいへんだと思うよ。ただでさえそんな見た目なんだから」  いっしゅん、なにをいわれたのかわからなかった。  きょう天気いいね。そのくらいのニュアンスだったから。  ただでさえそんな見た目。  手が震えてくる。  あれ? 友だちって、こういうこというの? 「漫画で食ってくなんて、人間でもむずかしいでしょ」 「そう、だね」 「勉強、苦手だったら教えてあげるよ」  そういって、やさしげに目を細める五十嵐くん。  五十嵐くんはきっと、親切心でいってくれている。  だって、ほんとのことだし。きれいごとだけじゃ、わたしたちはこの地球上でうまくやっていけない。  ありがとう。そういって笑ってみたけど、うまく笑えているか自信がない。  五十嵐くんが、窓の外を見る。入道雲でもない、空でもない。もっとずっと、奥のほうをみつめている。  五十嵐くんのなかにも、宇宙はあるのだろうか。 「ここは、ぼくたちには生きにくいね。息すらじょうずにできない」  五十嵐くんといっしょに教室へ戻る途中、市ヶ谷くんとばったり出くわした。  市ヶ谷くんのとなりには、早見さん。  市ヶ谷くんのとなりで笑っている早見さんの目は、とくべつきれいにみえた。黒目が管状花(かんじょうか)で、白目が花弁。白のガーベラみたい。  うっかりみとれていたら、市ヶ谷くんがわたしに気づいて手をあげた。  ガーベラのとなりに咲く、ひまわり。  やっぱりお似合い。  胸が、ちくりとした。
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