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「五十嵐くんと飯食ったのか」 「う、うん」 「そうか。よかったな」  骨ばった大きな手が、ひょいとのびてくる。わたしの頭の上で、二度はねる。  わたしの心臓も、ひょんと一度、大きくはねた。 「朔。むやみやたらに女の子にさわらない」  早見さんが、市ヶ谷くんのまるい耳をすらりとした指でつまむ。 「いてえな。なんでだよ」 「ごめんね、山田さん」  早見さんにほほえみかけられて、なんだかドキドキする。  だけど、わたし、どうしてか。  市ヶ谷くんのことで早見さんに謝られるの、すきじゃない。 「ミラ。そろそろ行こう」  むっつりと黙っていた五十嵐くんがいった。  五十嵐くんが歩きだしてしまったので、ふたりに頭を下げて、五十嵐くんのあとを追った。 「ミラって、あの人間と親しいの?」  あの人間。  まあ、たしかに。人間。そう、だけど。  五十嵐くんのいいかた、たまに心がひやっとする。 「親しい、っていうほどでも、ないかもしれないけど。たまにおしゃべりするくらい」 「ふうん。あんまり親しくなりすぎないほうがいいんじゃない?」 「どうして?」  市ヶ谷くんは、わたしに友だちができたこと、よろこんでくれた。 「よくみてみなよ。あの人間たちときみ、ぜんぜんちがうでしょ」  そういわれて、振り返る。  早見さんのとなりで笑う市ヶ谷くん。目も、耳も、手も。ふたりは、おそろい。  いままで見ないふりをしてきたなにかを、ぐっと目の前に突きつけられた気分。  たしかに、ちがう。ちがう、けど。  ちがうと、友だちになっちゃいけないの? いっしょに笑いあっちゃいけないの? 「ミラが傷つくの、みたくないんだ」 「傷つく?」  五十嵐くんのいうこと、いつもよくわからない。すぐに理解ができない。 「人間といたら、傷つくよ。劣等感、感じない?」  岩で、頭を殴られたみたいだった。  劣等感なんて、感じたことない。  ただ、みんなとちがうから。ちょっと恥ずかしいなって。そう、思うだけで。  制服の袖をひっぱって、指を隠す。左目がちゃんと隠れているか心配になって、何度も前髪を直した。
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