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家に帰ると、おかあさんがいた。
きょう早番だったんだ。きょうにかぎって。なんで。
「あら、ミラちゃん。お買いもの早かったのね。なに買ってきたの?」
おかあさんの声をきいたら、我慢していたものがあふれてしまった。
みひらかれるおかあさんの目。白目のある、人間の目。おかあさんの、うそ。
「おとうさん、新しい子どもができてたっ……」
おかあさんが、はっと息をのむ。
そうだったんだ。
おかあさん、知ってたんだ。
「ちゃんと、指がまっすぐでっ、左目もっ、白目がちゃんとあって、耳がとがってない、ちゃんと、人間のっ……」
おかあさんが、わたしを掻き抱く。
「ごめん。ごめんね。ミラちゃん」
ごめんね。ごめん。ごめんなさい。ミラちゃん。かわいそうに。おかあさんのせいで。
――劣等感、感じない?
五十嵐くんの言葉が、脳裡によみがえる。耳元で、おかあさんの泣きじゃくる声。鼓膜の奥で、蝉と歌う、しあわせそうなおとうさんの声。
エイリアンなのに。劣等感。そんな見た目なんだから。おかあさんのせいで。かわいそう。かわいそう。
そうなの?
わたし、かわいそうなの?
ぜんぶの声がマーブル模様のように混ざりあって、うるさい。頭が割れてしまいそう。
――きれいだよ、山田さんの目。宇宙みたいで、きれい。
市ヶ谷くん。市ヶ谷くん。
わたしもう、市ヶ谷くんの声だけきいていたい。
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