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早見さん、気づいただろうか。わたしが市ヶ谷くんを描いてるの。
気持ちわるいだろうな。いやだろうな。わたしみたいなのが、自分の彼氏の絵なんて描いていたら。
シャープペンをにぎって、線を描く。人間を描いているはずなのに、だれを描きたいのかわからない。
そういえばわたし、エイリアンって描いたこと、ない。
五十嵐くんのほんとうの姿を見たとき。おかあさんのほんとうの姿を想像したとき。この血が、わたしのなかに半分ながれてる。そう、実感したとき。
どうしてぜんぶ、人間の血じゃないんだろう。そう思った。思って、しまった。
劣等感。
なんだ。わたし。無意識に劣等感、感じてたんだ。
だからわたし、おとうさんが人間の子どもと手をつないでいるときも。市ヶ谷くんが早見さんと笑いあっているときも。
嫉妬で、頭が狂いそうだったんだ。
市ヶ谷くん。
市ヶ谷くんも、いってしまうんだね。おとうさんみたいに、いなくなってしまうんだね。
市ヶ谷くんも、ずっとわたしといっしょには、いられないんだね。
ぽたぽた、じわじわ。ノートに、なみだがしみる。
どうしてわたしの左目には白目がないの。どうしてわたしの指はへんなふうにまがるの。どうしてわたしの耳はこんなにとがってるのどうしてどうして。
どうしてわたし、おとうさんともおかあさんとも、市ヶ谷くんともちがうの。
ノートの上はぐちゃぐちゃ。いまのわたしの心とおなじ。黒い糸が絡まって、もうほどけない。
市ヶ谷くんとおなじだったら、わたし。
わたしだって、あなたがすきですって。
そう、伝えられたのに。
わたしのなかの宇宙が膨張する。
このまま爆発して、わたし、この体ごと消えてしまえたらいいのに。
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