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「せっかく話してくれたのに、ごめん。おれ、山田さんの気持ち、わからない。わかって、あげられない。
その苦しみは、たぶん、山田さんにしかわからない。おれには、わかってあげられない。わかったふりも、したくねえ。
だけど、わかってあげられなくても、知ることはできる。山田さんが、そういう苦しみ抱えてるって。それでも、けんめいに生きてるって。
だから、知られてよかった。おしえてくれてありがとう。もう、ひとりで抱えこまなくていい。ひとりで苦しまなくて、いいから。おれに半分ちょうだい。これからはぜんぶ、いっしょに考えよう」
市ヶ谷くんの言葉、ひとつひとつ。心にたまった澱を、溶かしていく。
なみだがとめどなくあふれて、こめかみをつたう。やさしく濡れる、ドーベルマンの耳。
「おれも、逃げてきたんだ。あの体育倉庫の裏」
静かに語る、市ヶ谷くんの声。ひっそり咲く、夕暮れのひまわりみたい。
「おれ、よく笑うし、よくしゃべるし、食うし。まあ、それは関係ないけど。とにかく、いつもへらへらしてるから、たまーにへんないじられかたするんだよ。こいつにならなにいってもだいじょうぶって。笑ってるから気にしないだろうって。そう思われてるんだなって、わかる。傷つけてもいいやって。
だから、たまにそういう自分に疲れて、ひとりになりたいときあんの。ひとが寄ってきてくれんのはうれしいし、楽しいし、取り繕ってるつもりもないのに。たまに、ぜんぶがめんどくさくなって、ほっぽりだしたくなる」
初めて見る、自嘲するような笑いかた。
「正直、弟も、たまにうざいし」
「…………」
「軽蔑した?」
大きく首を横にふる。
いつだったか、夜のひまわりを見たことがある。
眠っているように、頭をもたげて。どこかしょげたような、やつれた顏。
ひまわりも、疲れるんだ。そのとき、そんなふうに思った。
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