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 高校に入って、初めての三者面談。  おかあさんといっしょに廊下で待っているあいだ、目の前を通る生徒や、先生にまで盗み見をされる。  去っていく二人組の女子生徒を、ちらりと見やる。  二人は顏を寄せていて、なんだ、おかあさんふつうじゃん。そんなふうにいわれているような気がした。 「ミラちゃんのお友だちは、もう帰っちゃったのかしら」  おかあさんの耳打ちに、はっと肩がゆれる。 「どうかな。わかんない」 「そう。ざんねんね。ごあいさつしたかったんだけど」  その一言に、あいまいに笑い返した。  早く帰りたい。三者面談って、高校生活のなかであと何回あるんだろう。 「あれ? ミラ?」  その声に、うつむかせていた顏をあげる。  五十嵐くんだった。  五十嵐くんは、わたしのとなりに座ったおかあさんを無遠慮にみつめた。 「あ。お、おかあさん。お友だちの、五十嵐くん」  おかあさんは、あら、と目をまたたかせて、椅子から立ちあがった。 「ミラの母です。いつもミラとなかよくしてくれてありがとう」  おかあさんは深々と頭を下げた。まるで、会社のひとに頭を下げているみたい。  五十嵐くんは、そんなおかあさんに戸惑いながらも、丁寧にお辞儀を返してくれた。 「ミラはね、その、あなたとはちょっとちがうんですけどね。でも、根がとってもやさしい子なんですよ」 「おかあさん」 「エイリアンっていっても、みんながみんな危害を加えるような存在じゃないんです。それに、この子はハーフですし」  最後の一言に、心臓が冷える。  五十嵐くんは、ハーフじゃない。  おかあさん、知らないから。どうしよう。  ええ、そうですね、はい。五十嵐くんが、困ったように笑う。 「おかあさんっ。もういいから」  そのとき、視界の端に見慣れたシルエットが見えた。  心臓が、どっと胸を突く。  市ヶ谷くん。  市ヶ谷くんが、友だち数人といっしょに廊下の向こう側から歩いてくる。 「この子には苦労かけてしまって。親として、ほんとうに申し訳ないと思ってるんです。この見た目でつらい思いをさせてしまって、ほんと」  やだ。やだ。やめて。  市ヶ谷くんにきこえちゃう。  おかあさん、やめて。もう、やめてよ。
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