エピローグ

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「早見さんに、こく、告白されたって」  なんてことないふうにいおうとして、失敗する。  市ヶ谷くんは、ああ、と、少しおどろいてみせた。 「よく知ってんね」 「だって、うわさになってたし。ふたりが、つ、つき合ったって」 「あー、それなあ。それには優里もおどろいてた。ほんと、なんでそんなうそがながれんだ?」  まゆをぎゅっとしかめて、市ヶ谷くんは首をかしぐ。  つき合ったというのが誤報だということも、あっというまに校内を巡った。  どうやら、告白の現場で抱き合ったようにみえたのが、ほんとは抱き合っていたんじゃなく、ふられて泣いた早見さんを市ヶ谷くんがなぐさめていたんだとか。  しょげたガーベラのような目をしていた早見さん。もしかしたら、わたしの絵をみて憐れんだのではなく、ふられたことを思い出して、胸を痛めただけだったのかもしれない。 「恋って、どういうんだろうな」 「恋かあ」  市ヶ谷くんをモデルにしたヒーローの髪を描き足していく。ふわふわにすると見せたときにバレそうだから、真逆の直毛に修正した。 「楽しいこともうれしいこともたくさんあるけど、そればっかりじゃないよね。胸が苦しくて、たまらないってときもある」 「胸が苦しい?」 「うん。でも、それ以上のなにか、勇気とか、愛情とか。醜さ、なんかも。恋じゃないと芽生えない、とくべつな感情が、きっとあるんだと思う」  市ヶ谷くんに恋をして、わたしはわたしの世界を変えた。これからもきっと、そうなんだろう。  世界が変わる、なんて。未知で、すごく怖いけど。冒険に出る前の晩のような、わくわくもある。恋ってふしぎ。  胸が苦しいかあ。市ヶ谷くんはいう。 「胸が苦しいなんて、おれ、とんかつの食いすぎでしかなったことない」 「とんかつの食べすぎ」  口に出して、ふふ、少し笑っちゃう。なんだか市ヶ谷くんらしい。  ふと、市ヶ谷くんが黙りこんだので、ふしぎに思って手をとめる。  市ヶ谷くんが、あながあきそうなくらいわたしをみつめていて、ぎょっとした。 「なっ、なにっ?」 「なんで知ってんの?」 「へ?」 「恋が苦しいもんだって。なんで、山田さんは知ってんの?」 「えっ。あー、いや、それはっ、そのー」
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