エピローグ

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 しどろもどろになるわたしを、黒目の宇宙がじっと射貫く。 「なんかおれ、山田さんが恋は苦しいっていうのを知ってるのを知って、胸が苦しいんだけど」 「…………」  わたしが恋は苦しいっていうのを知ってるってことを市ヶ谷くんが知って市ヶ谷くんの胸が――。 「え? ど、どういうこと? 情報が多すぎて意味が」 「山田さん、すきなやついんの?」 「えっ。いやっ」 「おれもミラってよんでいい?」 「え? う、うん」  快諾すると、市ヶ谷くんは満足げにほほえんだ。ミラ。ミラっていい名前だな。きれい。ひとりごとのようにつぶやく。  朔も、きれいだよ。わたしも、朔くんってよびたいな。なんて。 「秋の空って、見てると腹減るな」 「そうだね」 「今度、いっしょに魚食いに行こっか」 「う、うんっ。行く」 「とんかつでもいいな」  風にのって、金木犀のほのかなかおり。鼻から大きく吸って、空を見上げる。となりには、少し憂いを帯びたひまわり。  宇宙は膨張している。わたしの心のなかで、いまも。  だから、たまには心を休めて。少しずつ、吐きださせてあげて。  この小さな宇宙を、すくってあげたい。  あなたがしてくれたように。 「恋って、とんかつとおなじ成分なのかもな」 「…………」  ちがうと思う。  かたちのちがう、わたしたち。  きょうもおなじ星のもと、もがきながら生きている。 (了)
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