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その言葉にぴくりと反応してしまう。
ということは、ここが………?
私はこの人に、会いにきた、の………?
「けど、そんな得体の知れないお姉さんをさ、介抱してた訳よ。放っておくのも可哀想だなって。優しくない?」
すると、そこでやれやれとばかりにわざとらしくそう口にするこの人の言葉を耳にしながら、でも、と眉を顰めながらも朧げな記憶を思い返す。
意識を失う前、最後に目に入った黒色の髪の人と目の前の栗色の髪の人の姿は似ても似付かない。
声も、違う。
朦朧としていた意識でもそれくらいは、分かる、から。
「………、黒い、髪の人、は?」
「うん。だから。人に聞く前に、まずお姉さんが自分のことを話してよ。お姉さんはどこの誰で、何の用があって、とか、色々あるでしょ。」
私、のこと。
私、私はーーー。
「………わ、からない。」
消えそうな、小さな声で話していたと思う。
私のその言葉に、は?、とさっきまでとは違う冷ややかな声が飛んできて、その変わりように少し肩を揺らしてしまう。
「ふざけてんの?」
寄りかかって座っていたその人がそう言いながら動くような気配がして、思わず口に出していた。
「っ、覚えてないのっ。なにも、名前も、全部っ、でも、あの紙が、地図が、あったから!だから、ここに来れば、何か分かるかもって、そう思って………っ!」
自分を守るようにしゃがみ込んで、視界に入った水面に映る私の顔は、不安そうに、揺れていた。
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