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迷い彷徨う
ーーーその日は、雨が降っていた。
寒さのせいか、熱のせいか。
私は朦朧とした意識のまま、手に握りしめるその場所を頼りにひたすらに歩いていた。
自分が、どこを歩いているかも分からない。
知らない街、知らない景色。
それでも、その場所へと向かう。
視界が、歪む。
頭が、痛い。
それに耐えながらも、得ないの知らない何かに駆られて足を動かし続けた。
ーーーだって、それが、私の唯一の手掛かりだから。
けれどそこで、びちゃっ、と、そう音がして、それから身体に痛みが走る。
雨でびしょびしょに濡れていた私は、更に泥に塗れる。
ぐっ、と、手に力を入れて起きあがろうとするけれど、力が入らない。
寒い。
眠い。
それに襲われるものの、焦燥感ともいえる使命感が私を奮い立たせる。
「なに、こいつ。」
ーーーそこで、上から声が降ってきた。
この寒い日に似つかわしい、とても涼しげな、声。
そうして、視線の端で捉えた私の歪んだ視界の中にいたのは、この暗い空に溶け込むような漆黒だと認識したのを最後に私の意識は途絶えた。
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