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Ⅶ 小舟の船出
そんな一団がまず目指すはヒミーゴ郊外にあるショコミチル運河の船着場……そこから船に乗り、運河を遡って南を流れる大河グリトグラへ出るという手筈だ。
その大河の流れる密林が黄金郷伝説の囁かれるエリアであり、また、宝の在処を教えてくる〝黒い雌鶏〟も、常にそちらの方角を向いて指し示しているのである。
「──よーし! 全体、止まれぇーっ! しばし休憩の後、ここで船に乗るぞーっ!」
一時間ほど市街地を行進した一行は、その運河の船着場へとたどり着く。
幅広い運河に造られたその船着場は、各地からヒミーゴへと運ばれる貨物の集積場となっており、川沿いには白漆喰の倉庫が建ち並ぶと、木製の桟橋にはたくさんの帆付き小舟が繋がれている……一件、海の港と見紛うほどの賑やかな風情である。
「さあ、休んだら急いで乗り込め! 今日の内になるべくグリトグラ川を進むぞ!」
大勢の荷運び人足達が行き交うその船着場で、わずかな休息をとっただけでフランデスが再び号令をかける。
「なんだ、もう休憩終わりかよお……」
「ま、しばらくは長閑に運河を遊覧だ。船の上でも休んでるようなもんさ」
その命に、歩き疲れて川端に腰を下ろしていた兵士達は、ぶつくさ文句を口にしつつもぞろぞろと小舟へ乗り込んでゆく……。
岸から何本も伸びる経年劣化した木製の桟橋には、探索隊が乗るための小舟十五艘も前もって用意されていた。
探索の期間、屋外で過ごすのに必要な物資もすでに積み込まれており、段取り上手なフランデスの差配ですっかり準備も万端である。
「海のお船にはだいぶ乗りましたけど、川のお舟に乗るのはこれが初めてですわ!」
「馬車に続いて舟も豪華! 側から見れば、わたくし達も貴族令嬢に見えましてよ!」
「オホホホ…苦しゅうなくってよ、メンズ達!」
兵達に続き、上機嫌なイサベリーナと侍女の二人も、〝黒い雌鶏〟を携えて隊長フランデス、水先案内人のウラタロと同じ小舟へと乗り込む……そこは隊長と雌鶏の座す、いわばこの捜索隊の御座船。彼女達の舟は少し差をつけて、他の兵達のものよりも一回り大きく、瀟洒な飾り彫りも施された特注の新造船だ。
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