Ⅶ 小舟の船出

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「では、行くぞ! 舟を出せーっ!」  そうして皆が乗り込み終えるとまたもフランデスが号令をかけ、桟橋を離れた舟団はいよいよ幅広い運河を進み始める……流れは進行方向へと向かっているため、最初こそ岸を離れるのに多少漕がなければならないものの、帆やオールを使わずとも舟は自然と進んでゆく。  船着場があるのでひっきりなしに水運の舟は往来しているものの、これほどの数が徒党を組み、長蛇の列となって行くのは珍しい光景だろう。  先頭を行くのはもちろん、〝黒い雌鶏〟と水先案内人のウラタロを乗せたフランデス、イサベリーナ達の豪華な舟。  先程の道中同様、その周囲を羊角騎士団を乗せる四艘が固め、その後に一般兵各々十名づつを乗せる舟十艘が、長々と縦に続くという順番だ。 「少々狭いな……ちょっとでも動くと落ちそうだ……」 「さすがに大柄なオヤジさまでは仕方ないですよ」  ちなみにエラクルスが身を丸めて窮屈そうにボヤき、それを眺める従騎士イーラスが苦笑いを浮かべているように、彼の巨体に一般人用の小舟(ボート)は手狭なため、三十名の羊角騎士団はエラクルスと小柄なイーラス、女性伝令官アドラ・ティの乗る舟一艘に、やはり大男な操舵手アンケイロスと、何かと装備品が場所とって邪魔な竜騎兵(ドラグーン)のポレアージョ兄弟他四名の一艘、あとは各十名づつが乗る二艘の全四艘に分かれている。 「お昼までにはショコミチル運河を抜けて、グリトグラとの合流地点に着けるかと思いやす。そこで食事がてら休憩にしましょう」 「うむ。今はまだ気楽な船旅だが、それ以降が問題だな……」  舟先で霞む運河の彼方を眺め、今後の予定を話し合うウラタロとフランデスの傍ら。 「新天地にもこんな大きな運河があったんですのね! 川遊びもできるなんて、ほんとに愉しい冒険の旅ですわあ!」  青々とした穀倉地帯を流れる長閑な河辺の景色を堪能しながら、すっかりイサベリーナは物見遊山気分だ。
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