Ⅶ 小舟の船出

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「──行ったね? さて、そろそろ僕らも出発するとするか……」  運河を行く探索隊の舟団がだいぶ小さくなった頃、船着場の一角にテントを張って隠れていたマルクは、のそのそとその中から這い出ると振り返って皆にそう告げる。  今日の彼はいつものフード付きジュストコールではなく、白い半袖編み上げシュミーズの上に袖なしジレ風のものを纏うという高温多湿対策な服装をしている。  また、被っている三角帽(トリコーン)魔女の帽子(ウィッチハット)を合わせた帽子も、パナマ草の葉の紐で編んだ避暑用の特注品だ。 「よーし、いよいよか。楽しい旅になりそうだぜ」 「いざ参らん! 密林(ジャングル)の奥地へ!」 「旦那さま、やはりその恰好では暑くないですか?」  マルクに促され、続いてリュカ、ドン・キホルテス、サウロの三人も外へと出てくる。  リュカはまあ、普段から半袖半ズボンであるし、サウロも今日はジャーキンを着けず、半袖に麦わら帽子を被っているのであるが、キホルテスだけはいつもながらに甲冑フル装備である。 「店ヲ閉めてマデ来たからにハ絶対にお宝ヲ手に入れて帰るネ!」 「うん。夢半ばで諦めたわたし達の覚悟、あの人達に見せてあげよう!」  いまだにタコス屋のことを引きづりながら、さらに露華、マリアンネもテントの中から現れるが、露華は半袖半ズボン、マリアンネは半袖にキュロットと、やはり二人の服装も避暑用の仕様になっている。  ちなみに露出した肌部分には、ミントやローズマリーなどのハーブから作ったマルク特製虫除け薬を塗っているため、蚊などの害虫対策もバッチリだ。  そんな密林(ジャングル)仕様(※一人は除く)の秘鍵団の一行は、手早くテントをたたむと桟橋の方へと降りてゆく……。 「それじゃあ、皆さんお待ちかねのこいつのお披露目といこうか……さあ、とくとごろうじよ! 小さい楽園の悪龍(ペケーニョ・レヴィアタン・デル・パライソ)号だ!」  誰に向けての言葉なのか? 芝居がかった調子でマルクはそう告げると、そこにかかっていたシートを勢いよく一気に引っ張がす。
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