Ⅶ 小舟の船出

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 すると、その下からは彼らの海賊船〝楽園の悪龍(レヴィアタン・デル・パライソ)号〟を小さくしたような小舟(ボート)が一艘、威風堂々とその姿を現した。  胴体にはレヴィアタン号同様、緑青(ろくしょう)の吹いた鱗状の銅板が貼られ、前方突端には船首飾り(フィギュアヘッド)のようにドラゴンの首もくっ付いている。  また、オールはもちろん備えている他、今はたたまれた状態になっているが、中央にマストも一本立てて三角帆を張れるという構造である。 「おおおお! ……て、もうすでに俺達見てるから驚かないけどな」  マルクの言葉にノリ良く反射的に驚いてみせるものの、探索隊が出発間際であることを知ってからのここ数日、この船着場に停留する舟へ物資を運び込んでいたのはリュカ達自身であり、見るのはこれが初めてではない。  なので、彼らにとってはもう目新しいものではなく、さほどの感動もないのだ。 「うむ。もちろん良い出来だとは思うでごさるがな」 「なんというか、もう見慣れてきてますし……」  それはキホルテスやサウロにしても同様である。 「ええ〜、せっかく僕が丹精込めて造ったんだから、もうちょっと盛り上がりを見せてくれよお〜」 「そう言われてもなあ……てか、造ったのもお頭じゃねえだろ?」  そんなつれない仲間達の態度に拗ねてみせるマルクであるが、リュカは厳しくさらにツッコミを入れる。  この舟、ウラタロからの報告により、副王の目的が黄金郷探索であるという情報を得たマルクが、密かにこの場で用意していたものであることは確かだ。  だが、実際に造ったのは彼ではなく、当然のことながら地元の小舟(ボート)造り職人である。  ただし、雇ったその職人に魔導書『ソロモン王の遺言』に記された悪魔を宿し、いわば〝肉体を持った悪魔〟を使うという特異なやり方でマルクはその製造を行った。本物の〝レヴィアタン号〟改修時と同様の手法である。  この魔導書にある悪魔は太古の昔、伝説のダーマ人の王ソロモンが聖地ヒエロ・シャロームの大神殿を築くのに使役した悪魔達であり、その悪魔を宿した人間は、大工仕事はもちろんのこと、金属加工などにも長けたその道の名工に早変わりというわけだ。  加えて取り憑かれている時の記憶は曖昧になるため、秘密保持の面においても都合が良い。
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