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微笑が、来栖紗良には悪魔のような笑みに見えるだろう。 諦めろ。そう悪魔が囁いているような、笑み。 「日下部」 押し黙った来栖紗良から、冷酷な無表情を、日下部に向ける。 「俺を告発するのはいいが、それで公になるのは、俺がサイコパスだという事実だけだ。犯罪を行う可能性が高いだけで、犯罪を行っていない俺を警察は逮捕することはできない。だが、お前は違う。ストーカーは立派な犯罪で、警察は容赦しない。来栖紗良との関係は断たれ、お前は孤立する。厄介払いされている家族から、自由を奪うように、監視下に置かれるかもしれない。告発しても、俺の被害は少ないが、お前は全てを失う。それでも、するのか?」 「……」 意志が、揺らぐ。一時の感情で口走っただけの決意は、弱い。 「お前はこのまま、来栖紗良へのストーカー行為を続けられるんだ。恩を仇で返すような真似はするな」 「でもっ……!」 「なら、こうしよう」 揺らいでも、折れない。煩わしいと、俺は冷酷に発する。 「お前が俺を告発すれば、俺は来栖紗良を告発する」 「何でっ!?」 雄叫びとも思える不服が、八帖の洋室に響く。 「紗良ちゃんは関係ない!」 「それが、俺には関係ない」 対照的に、淡々と、冷酷を貫く。 「来栖紗良を守るために告発するのだろうが、それはお前の問題で、俺はそれに巻き込まれるのだろう?だったら俺も、来栖紗良を巻き込むだけだ」 「……」 「お前個人の問題で、お前は、来栖紗良の人生も終わらせてしまう。お前が殺さなくても、来栖紗良は世間的に死ぬ。守ったはずが、殺してしまう結果となる」 「駄目!……駄目っ」 来栖紗良の死を振り払うように、首が左右に振られる。日下部に、来栖紗良は守れない。それは、火を見るよりも明らかだ。
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