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世間話を繰り広げて心の距離を縮める気など更々なく、俺は口許に微かな弧を描いた。
「君のお母さんに頼み事をされてね。君が最近、体調不良を理由に部活を休むことが多い、と」
「……」
露骨なまでに、透吾の顔に不愉快が生まれる。俺を睨む目は、敵意に満ちていた。
「そんなの、お前には関係ないだろ」
「お前かぁ。中々手厳しい」
精一杯の虚勢は可愛げのあるのもので、笑みが深まるのを自覚する。
「確かに、俺には関係ない」
「じゃあ、関わるなよ」
「言ったろ。君のお母さんから頼まれたって。心配されてるんだ。本当に体調不良なら病院に連れて行くべきなのに、普段の君からは一切見受けられない。仮病を疑うには十分なほどだと」
「うるせえな。保健室で寝たら治るんだよ」
「それは嘘だ。部活を休むと顧問に申し出て君は、そのまま下校している。君が三日連続で部活を休んだ時、顧問は心配してお母さんに連絡してるんだ。その時に、真っ直ぐ帰宅してないのが明らかになった。部活に精を出してると思っていたお母さんはびっくり。ーーと、言わなくても覚えがあるんじゃないのか」
三日連続、体調不良で休んでいる。顧問からそう連絡を受ければ、多香子はその日の内に問い質すだろう。
真っ直ぐ帰宅してない。多香子からそう明かされれば、顧問は翌日に問い質すだろう。
だが、透吾の答えは沈黙。それが疑惑を深めてしまうと、中学生には気付けないのか。
その時の出来事を想起した透吾は、不満げに、且つ、不快そうに眉をひそめた。
「その後も君は、部活に出たり出なかったりを繰り返している。そんな日々が続けばお母さんは心配して当然だ。君が何か、良からぬことを企んでいるのではないか。良からぬグループに所属しているのではないか。と、不安で泣きそうになっていたよ」
悲嘆を浮かべた俺が、多香子と重なって見えたのだろう。透吾は申し訳なさそうに、俯きがちに視線を逸らした。
誇張は大事だ。親を大切にしている子供には効果的。
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