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「浅倉隆次が来栖紗良と会っているだけで、そいつの正体を知ろうと、解き明かしてくれそうな俺を利用しようとした奴だ。浅倉隆次との間に恋愛関係を見出せなかったから、まだ自分を抑えていられたにすぎない。来栖紗良が交際を始めたら、お前の自我は確実に崩壊する。相手の男を殺すか、来栖紗良を殺すか。どちらかだ」
「そんな……。そんなわけ、ない……」
弱々しい語尾が、自分自身でも否定できないと、伝えてしまっている。
歪んだ好意。独占欲。誰かのものになるぐらいなら、相手を殺して自分も死ぬ。ストーカーのーー日下部の思考など、読みやすい。
そんなわけない。囁くように繰り返す日下部は、自分自身に言い聞かせているかのようで、苦痛すら言外に滲んでいる。
「先に葬り去るか、葬り去られるか」
日下部爽多。来栖紗良。二人を見つめ、研究対象へと変わり、悦に入る。
「危うい関係なお前らを見物するのが、俺の目的だ」
「なに……。それ……」
絞り出すように嫌悪を吐いた来栖紗良の口は、それ以上続かなかった。死の想像と、得体の知れない恐怖が、言葉を封じてしまった。言葉の代わりに、蔑視だけを強く放っていた。
日下部も、同様だ。拭い去らない苦痛を残しながらも、隠れた目元は、蔑んでいる。
研究対象ーーいわゆる、マウス。俺に対してどのような感情を抱こうが、取るに足らない。嬉々とした思いだけが、俺を満たしていく。
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