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「心理学だよ」 殺すか、殺されるか。二人の関係を明言すれば、後は高みの見物だ。蔑みの視線がそうさせたのか、気付けば俺の口は目的を詳細に語っていた。 「人は、あらゆる場面に直面した時、何を思考し、どのような行動を取るのか。俺は、それを知りたい。だから、『SkyBlue』でも、色んな住人と関わりを持って、調べている。そして!あらゆる場面において、俺が最も気になっているのは、殺人に至る犯人の行動だ」 「……」 「殺害を決意し、殺人に至った過程、思考。本人にしか知り得ないそれを知れれば、犯罪心理は大きく飛躍する。良い方にも、悪い方にも」 「……」 「殺人を止めることが可能かもしれない。あるいは、殺意を植え付けて、殺人を起こさせるのが可能かもしれない」 「殺意を、植える……?」 震える唇が、畏怖を吐き出す。察してしまった俺の計画が、理解し難いのだろう。俺は、来栖紗良の脳内を肯定するように、口許に大きく弧を描いた。 「自分の手を汚さずに、人を殺すことが、可能かもしれない」 「……っ!」 吐き気にでも襲われたのか、直視にすら耐え難いと、来栖紗良は顔を逸らした。 河井秋人。浅倉隆次。二人の人間を殺害した人物が、人の殺意に反感を示すのは滑稽だ。今更、善人ぶっても、罪は消えない。 それでも来栖紗良は、自身を棚に上げ、非難するように微かに眉間に皺を寄せた。 「自分の手を汚さなくても、殺人教唆って罪には問われるのよ」 「知ってるさ。その立証が難しいということも」 『あいつを殺してくれ』その一言を録音でもしていなければ、言った言ってないの論争となり、平行線の一途を辿る。
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