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「日下部」 蔑みながら、怯える日下部を射抜く。 「お前には、来栖紗良を助けてくれたという恩がある。それを無下にするのなら、逆戻りさせるだけだ」 「……」 「来栖紗良」 蔑みながら、怒りを放つ来栖紗良を射抜く。 「君には、香月江里を死に追いやったという罪を被せられる。それだけじゃなく、十年前の事件の真相も、浅倉隆次殺害も公になる。三人も殺していれば、一生刑務所だろう。そうなれば、発狂する人間が一人いる。そいつが抱えている理想が崩壊すれば、どうなるか。罪には問われなくても、四人目、となるかもしれない」 「……」 八年の暮らしで、理想は痛感してしまっている。誰かの代わりでも、八年、育ててもらっている。容易く、無下にすることができない。 ぐうの音も出ない二人の惨めさに、俺は自然と含み笑いを漏らしていた。 足掻いても、逃げられない。蜘蛛の巣に囚われた蝶だ。 捕食されるのをーー俺の研究の一部となるのを、ただ待つだけ。 ストーカー加害者と、被害者。一方は愛、一方は憎しみ。必ず、殺人は起きる。 日下部が来栖紗良を殺すか、来栖紗良が日下部を殺すか。日下部が用いる凶器は不明だが、来栖紗良が用いる凶器は判然としている。 刺殺。近い未来に起きる殺人を想像しただけで、高揚が止められない。 「くっくっ……。はっはっ!?」 含み笑いが、高笑いへと変わる。剣呑な空気の中に、場違いな笑い声。 「何がおかしいの!?」 不快が、来栖紗良の怒りに拍車をかける。
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