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「ああ、すまない」 俺は素直に、自分の非を認めた。 「興奮が抑えられなかっただけだ」 「やっぱり狂ってる!」 「……僕は」 怯えがない。蔑みもない。前髪で隠れている瞳には意志が宿り、力強く俺を捉えていた。 「僕は、紗良ちゃんを殺すぐらいなら、僕の罪を告白する。そして、君の罪も告発する」 「殊勝だな。自分を犠牲にするのは構わないが、俺の罪とは?」 「自分の手を汚さずに人を殺すって言ってたじゃないか」 「殺人は、計画しただけでも罪になるのよ」 「ほおー」 ストーカーの日下部を擁護するように、補足する来栖紗良に感嘆としてしまう。盗撮された写真が壁一面に貼られた八帖の洋室の中で、最も忌み嫌っている相手は、ストーカーではなく、狂気的な俺のよう。 狂気を越えた狂気を、断罪に追い込むために、擁護するのは一時だけだろう。それでも、加害者と被害者が手を組む様は、感嘆こそしたが、滑稽でもある。意味のない糾弾だ。 「確かに、殺人は計画しただけで罪になる」 だが、と即座に打ち消す。 「俺は殺人など計画していない」 「とぼけないで!二人も聞いてるのよ。言い逃れなんかできない!」 「君達が聞いたのは、殺人犯の思考を知れば、自分の手を汚さずに人殺しが可能かもしれないということだろう。それを俺が実行したいとは、一言も言ってない。俺はただ、犯罪心理を研究しているだけだ」 「……っ!」 来栖紗良が歯噛みする。 「その研究の先に、殺人計画があるんでしょ」 「研究の先はまだ未定だ。だから研究している」 墓穴を掘ることはない。そう言い表すように、俺は笑みを向けた。
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