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「君にも、同じことが言える」 沈黙を続ける来栖紗良に、微笑を向ける。 「自分の罪を告白し、俺を告発する覚悟を抱いても、俺への被害は少なく、自分は全てを失う。君の場合は、仕返しに日下部を告発しても意味はなさないが、君の行動で、壊れる人間が一人いることを忘れないように」 日下部には、来栖紗良が。来栖紗良には、養母が。 自分を犠牲にしても、巻き込められる相手がいる。無下にすることができない相手。抑止させるには、十分な材料だ。 例え、全てを失う覚悟を抱いても、俺は、別の場所で研究を続けるだけ。日下部も来栖紗良も、犬死にだ。 俺は、嘲笑うように、笑みを深めた。 「大人しく、日常を過ごすことだ。今までも変わらない生活を送ればいい。一つ違う点は、ストーカーの存在を認知していること。それも、影を潜めている日下部を気にしなければ、何の問題もない」 「ある、でしょ……」 日下部を一瞥すらせず、ストーカーに怒りを向ける。あるいは、俺に向けて。 けれど虚勢でしかなく、俺は思わず鼻で笑った。 「今まで気付かなかったのだから、これからも、いない者として過ごせばいい。日下部は必要以上に近付いたりしない。なあ?」 「……」 同意を求めても、日下部は首を縦にも横にも振らなかった。 聖域。日下部が定めた、来栖紗良との接し方。相当な理由がない限り、自ら破ったりしない。 破く時は、凶行に及ぶ時だ。
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