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ほくそ笑むのは一瞬で、透吾の不安を掻き立てるように、畳み掛ける。
「反抗期でないのは、夕食時の団欒さが証明している。だがそこで、部活の話になれば君は歯切れが悪くなるか、口をつぐむ。部活に精を出してない証拠で、隠し事があるのは明白。それがお母さんを悩ませている。君は息子だ。見ていて気付かないか?お母さんが不安で、心細くなっている様を」
「……」
隠し事があれば、周囲の目に敏感になる。気付かれていないかと、細心の注意を払って行動する。
それに、面と向かって不安を向けられたことは、一度や二度ではないだろう。
多香子の心配を、透吾は知っている。身に覚えのある感情、そして雰囲気。
人の弱味に付け込むのは、容易だ。
顔を曇らせる透吾は、今にも涙を流しそうなほど、目元を光らせていた。
「……何だよ」
目元を乱暴に拭う。気丈に振る舞うように不機嫌を隠さないのは、思春期故だろう。俺を直視する瞳は、怒りと悲しみを宿している。
「何だよお前。何でお前なんかにお母さんは頼んだんだ」
「それも言った。このマンションーー君と同じマンションに住んでる顔見知りの仲で、君のお母さんは、俺がミステリー好きだと知ってるからだ」
「それで引き受けたのかよ」
「ミステリー好きと、実際に謎が解けるのは別って一度は断ったんだけど、縋られて。犯罪行為に手を染めてるかもしれないとまで言われたら、引き下がれないだろ?」
「刑事か何かかよ」
「刑事じゃない。職業を尋ねているのなら俺は学生ーー大学院生だ」
「大学生って暇なんだな」
「皮肉か?言っとくが大学生と大学院生は違うぞ。平たく言えば、講義を受けて知識を得るのが大学生で、得た知識を更に深く研究するのが大学院生。俺は、大学院生」
「どっちでも変わらねえよ。頼まれて、引き受けてる時点で暇人じゃん」
「俺が研究してる分野は、研究室に籠って黙々と作業に没頭するような理系じゃなく、広い視野と行動を持ってあちこち飛び回ることに意味があるような文系だ。詳細を明かしても君には理解できないと思うから言わないでおくよ」
「……」
中学二年生。大人に見られたい年頃だろうに、嫌味なまでに子供扱い。唇を噛み悔しがる姿は、まさに子供そのものなのだが。
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